【第16回】原状回復の特約の合意は成立しているか3

前回のブログでは、通常損耗分も借主に負担させる特約について、

最高裁平成17年12月16日判決をもとに、

特約の合意が成立しているかについて判断した判例を紹介しました。

はたして、私の契約の場合は、特約についての合意は成立しているのでしょうか。

そこで、調べてみました。もちろん、私個人の見解も入っています。。

私の場合の特約条項

賃貸借契約書の「特約条項」には記載はなく、「賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書」に記載があります。

【2】当該契約における賃借人の負担内容について

本契約では、特約として以下のことを賃借人の負担で行なうことにしています。

 [1] 室内全体のハウスクリーニング(自然損耗・通常使用による部分も含む)

 [2] 退去時における住宅の損耗等の復旧について

 (1)賃借人の責めに帰すべき事由による汚損又は破損について、その復旧費用は賃借人の負担とすること。

 (2)・・・

 (3)生活することによる汚損について、その復旧費用は賃借人と賃貸人とで2分の1ずつ負担すること。

・・・

本記載についての私個人の見解

さて、上記の記載は、借主の負担として、

  1. 通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白でしょうか。
  2. 通常損耗の範囲を具体的に明記しているでしょうか。

それぞれの記載について、「一義的に明白」か、「具体的に明記」しているかという観点で、独自に判断したいと思います。

[2] 退去時における住宅の損耗等の復旧について

 (1)賃借人の責めに帰すべき事由による汚損又は破損について、その復旧費用は賃借人の負担とすること。

まず、この記載から見ていきましょう。

この程度の記載では、借主負担に通常損耗を含む趣旨であることが、少なくとも、一義的に明白であるとはいえないと思います。

むしろ、 [1] の

室内全体のハウスクリーニング(自然損耗・通常使用による部分も含む)

には”自然損耗・通常使用による部分も含む”と記載されているが、ここでは記載されていないので、

通常損耗は含まれない、とも読み取れます。こういうのは、一義的ではなく、多義的っていうのでしょうか。

仮に、通常損耗を含むとしても、借主が負担する通常損耗の範囲が具体的に明記されている、とは全くもっていえないと思います。

 

[2] 退去時における住宅の損耗等の復旧について

 ・・・

 (3)生活することによる汚損について、その復旧費用は賃借人と賃貸人とで2分の1ずつ負担すること。

次に、この記載についてはどうでしょう。

こちらも同様の理由から、借主負担に通常損耗を含む趣旨であることが、少なくとも、一義的に明白であるとはいえないと思います。

そもそも”生活することによる汚損”とはどういう定義なのでしょうか。

”汚損”とは、国語辞典によると、「汚して傷つけること。また、その汚れや傷。」とのこと。

「生活することによる汚損」ですが、生活することで、通常・自然に汚損することもあれば、借主過失で汚損することもあります。

前者は通常損耗ですが、後者は借主責任の汚損です。

熟読すると、

1)賃借人の責めに帰すべき事由による汚損又は破損について、その復旧費用は賃借人の負担とすること。

は、借主の故意・過失に関する記載であることから、

3)生活することによる汚損について、その復旧費用は賃借人と賃貸人とで2分の1ずつ負担すること。

は、通常損耗のことを言わんとしてるのかな、と推測はできるんですが、少なくとも一義的に明白ではないと思います。

仮に、通常損耗を含むとしても、こちらについても、借主が負担する通常損耗の範囲が具体的に明記されている、とは言い難いです。

 

【2】当該契約における賃借人の負担内容について

本契約では、特約として以下のことを賃借人の負担で行なうことにしています。

 [1] 室内全体のハウスクリーニング(自然損耗・通常使用による部分も含む)

最後にこちらについてはどうでしょうか。これは、いわゆる「クリーニング特約」ですかね。

”通常損耗・通常使用による部分も含む”と明記していますね。

では、その通常損耗分の借主負担について、具体的に明記していますでしょうか。

以下で、私個人の見解を以下に列挙して記載します。

念の為記載しておきますと、退去時に、私は妻と二人で一日がかりで、室内全体の大掃除はしています。

なお、一般原則としては貸主負担となる通常損耗分の負担を、借主に対して強いるのであるから、

その負担内容の明確性、具体性は厳格にすべき、という考えに基づいての見解です。

  1. 退去時における住宅の損耗等の復旧なのか不明である。

    上2つは、”退去時における住宅の損耗等の復旧について”と明記しているのに対して、このハウスクリーニングについては記載がありません。
    入居にあたってなのか、退去時なのか不明です。あるいは入居期間中に定期的にハウスクリーニングすればいいのでしょうか。。。

  2. 借主が負担する通常損耗の範囲・内容が不明である。

    どの箇所・部位(例:床、壁、キッチン、浴室)に関してなのか、どのような内容の損耗分(例:タバコのヤニ、油汚れ)を負担するのかなど、具体性に欠け不明です。

  3. 通常損耗分の負担範囲について、「3)生活することによる汚損について、その復旧費用は賃借人と賃貸人とで2分の1ずつ負担すること。」との違いが不明である。

    仮に、退去時に、壁や床、キッチン、窓などに、生活することによる汚損(通常損耗)があり、クリーニング(清掃)により補修した場合に、ハウスクリーニングの記載に基づく借主負担なのか、上記の3)生活することによる汚損についての折半なのかが不明です。

  4. 借主がどのような清掃内容をどのようにどのような条件のもと負担するのかが不明である。
    ゴミの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り清掃など、清掃内容が不明確です。

    ”ハウスクリーニング代”や”ハウスクリーニング費用”ではなく、”ハウスクリーニング”としか記載されていないため、金銭的な負担なのか不明です。借主自身の労力にて負担すればよいのでしょうか。

    ”専門業者によるハウスクリーニング”という記載であれば、借主がその費用を負担することは認識はできるかと思いますが。。。費用負担及びその費用負担程度について予測可能性が低いと言わざるを得ないと思っています。

ちなみに、現在入居している物件の賃貸借契約書にも、クリーニング特約がありますが、その金額を明記しています。

次回は、そもそも、この特約の存在自体を、借主である私自身が認識していなかった、について記載予定です。