【第17回】原状回復の特約の合意は成立しているか4

はじめに

前回のブログでは、最高裁判決や他の判例をもとに、

はたして、私の契約に関連する書類の記載内容について、特約についての合意は成立しているのか、

について記載しましたが、

そもそも、この特約の存在自体を、借主である私自身が認識していなかったのではないか、と思っています。

そこで、調べてみました。

賃借人に特別の負担を課す特約の要件

国土交通省のガイドラインでは、判例等をもとに、借主に特別の負担を課す特約の要件として以下の3つを記載しています。

  1. 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  2. 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  3. 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

最高裁判例平成17年12月16日

また、おさらいになりますが、最高裁判例では、

借主に通常損耗分の負担を課すことについて、

建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗に ついての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すこと になるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費 用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記 されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により 説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められ るなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されて いることが必要であると解するのが相当である。

と述べています。

ということは、

少なくとも、借主が、通常損耗補修特約を明確に認識しており、それに対して明確に合意の意思を表示していること
が必要であると考えます。
また、ガイドラインでは、以下のように述べています。
「したがって、仮に原状回復についての特約を設ける場合は、その旨を明確に契約書面に定めた上 で、賃借人の十分な認識と了解をもって契約することが必要である。また、客観性や必要性につい ては、例えば家賃を周辺相場に比較して明らかに安価に設定する代わりに、こうした義務を賃借人 に課すような場合等が考えられるが、限定的なものと解すべきである。 なお、金銭の支出を伴う義務負担の特約である以上、賃借人が義務負担の意思表示をしていると の事実を支えるものとして、特約事項となっていて、将来賃借人が負担することになるであろう原 状回復等の費用がどの程度のものになるか、単価等を明示しておくことも、紛争防止のうえで欠か せないものであると考えられる。」

私の契約の場合は・・・・

それでは、私の契約の場合は、どうなのでしょうか。

実は、通常損耗補修特約が記載された「賃貸住宅防止条例に基づく説明書」に署名捺印していない。
借主である私は、通常損耗補修特約が記載された「賃貸住宅防止条例に基づく説明書」に署名捺印していないのです。
「賃貸住宅防止条例に基づく説明書」について私は誰からも説明を受けておらず、署名捺印もしていません。
当然、その内容について説明を受けていないのですから、通常損耗補修特約について認識すらしていませんし、
少なくとも、合意の意思表示もしていないのです。。。
実は、私の契約の場合は、賃貸借契約書上、法人個人連名契約となっております。
借主は二人でして、一人は入居者でもある私で、もう一人は私の勤務する会社になっています。
「賃貸住宅防止条例に基づく説明書」に署名捺印していたのは、私の勤務する会社でした。。。
では、「借主の私としては、貸主との間の契約として成立していないですね。」となりそうですが、
「賃貸借契約書」と「賃貸住宅防止条例に基づく説明書」は合綴されている。
「賃貸借契約書」自体には、私は記名押印しており、
また「賃貸借契約書」と「賃貸住宅防止条例に基づく説明書」は合綴(1つにとじ合わされている)されています。
(合綴はしていますが、契印はしていません。)
それだったら、今度は、
「書類は一体となっているのだから、私は合意したんでしょ。」となってしまいそうですが、
私は以下の理由から、
少なくとも、借主が、通常損耗補修特約を明確に認識しており、それに対して明確に合意の意思を表示している
とはいえない、と考えます。
  • 通常損耗補修特約については、賃貸借契約書(や重要事項説明書)の特約条項やその他箇所に記載がなく、「賃貸住宅防止条例に基づく説明書」を引用することもない。
    それだけでなく、賃貸借契約書の記載は、以下の通り、むしろ、通常損耗分の負担を否定しています。

    「(明渡し)
    第11条 ・・・乙及び丙(借主)は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き、本物件を原状回復しなければならない。

  • 「賃貸住宅防止条例に基づく説明書」の宛名はあくまでも会社名であり、私宛てではない。

以上から、少なくとも、借主の一人である私が通常損耗補修特約について明確に認識して合意の意思表示をしているとは認められない、と思います。