【第41回】債務不履行に基づく損害賠償(2)

はじめに

損害賠償義務の発生原因とは、2つに大別され、不法行為に基づくものと、債務不履行に基づくものがあります。

そこで、債務不履行に基づく損害賠償について、法律素人が調べてみました。前回のブログの続き(第2回)です。

損害の発生

債務不履行によって被害者(債権者)に生じた損害の種類に以下があります。

  1. 財産的損害
    財産上の損害
    生命、身体など人格的利益が侵害されることによる損害と、経済的利益が侵害されることによる損害とがある。
  2. 非財産的損害(精神的損害)
    非財産上の損害、この賠償金を慰謝料という。
    債務不履行に関しては、精神的損害も理論的には賠償の対象にはなると解されている。もっとも、債務者が、(生命,身体等の人格的利益ではなく、)経済的利益やこれに関する意思決定の自由を侵害されたにとどまる場合、特段の事情がない限り、原則として慰謝料請求は認められない。(最判平成15年12月9日)

最判平成15年12月9日

最判平成15年12月9日はこちらです。

これに関して、Hayatoが個人的にメモしたいことは以下の通りです。

この判例は、

火災保険契約の申込者が同契約に附帯して地震保険契約を締結するか否かの意思決定をするに当たり保険会社側からの地震保険の内容等に関する情報の提供や説明に不十分な点があったとしても慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価すべき特段の事情が存するものとはいえないとされた事例

です。

上告人は,本件各火災保険契約の締結をする際に,被上告人らに対し,本件地震保険に関する事項について情報提供や説明をすべき義務があったにもかかわらず,これを怠ったなどと主張して,不法行為,債務不履行又は契約締結上の過失に基づき,精神的苦痛に対する慰謝料として地震保険金相当額から保険料相当額を控除した差額金の支払を求めた。
原審は,被上告人らの主位的請求,予備的請求(その1)及び予備的請求(その2)のうち、予備的請求(その2)のうちの上記第2次的請求(慰謝料請求)については,次のとおり判断して,被上告人らの請求を一部認容した。

(1)本件地震保険に関する事項についての情報は,火災保険契約を締結しようとする者が地震災害にどのように対処するかを決定するに当たって不可欠の情報であり,「保険契約の契約条項のうち重要な事項」と解されること、保険会社と火災保険の契約者との間において地震保険に関する情報面での格差が著しいことなどからすると,上告人は,被上告人らに対し,本件各火災保険契約の締結に当たって,本件地震保険に関する事項についての情報提供や説明をすべき信義則上の義務があるというべきである。・・・債務の存在
しかるに,上告人は,上記の義務の履行を怠った。・・・事実としての不履行

(2)上告人が,被上告人らに対し,上記の義務を履行することによって,被上告人らが地震保険契約の申込みをした可能性も否定できないのであって,この自己決定の機会を喪失したことにより被上告人らが被った精神的苦痛は,上告人の上記の義務の違反と相当因果関係のある損害である。・・・債務不履行と損害の発生との間の因果関係
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。

1.このような地震保険に加入するか否かについての意思決定は,生命,身体等の人格的利益に関するものではなく財産的利益に関するものであることにかんがみると,この意思決定に関し,仮に保険会社側からの情報の提供や説明に何らかの不十分,不適切な点があったとしても,特段の事情が存しない限り,これをもって慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価することはできないものというべきである。

(1)申込者である被上告人らは,申込書に記載された情報を基に,上告人に対し,火災保険及び地震保険に関する更に詳細な情報の提供を求め得る十分な機会があった

(2)被上告人らは,いずれも,この欄に自らの意思に基づき押印をしたのであって,上告人側から提供された情報の内容を理解し,この欄に押印をすることの意味を理解していたことがうかがわれる。

(3)上告人が,被上告人らに対し,本件地震保険に関する事項について意図的にこれを秘匿したなどという事実はない。

2.これらの諸点に照らすと,本件各火災保険契約の締結に当たり,上告人側に,被上告人らに対する本件地震保険に関する事項についての情報提供や説明において,不十分な点があったとしても,前記特段の事情が存するものとはいえないから,これをもって慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価することはできないものというべきである。

したがって,前記の事実関係の下において,被上告人らの上告人に対する前記の募取法11条1項,不法行為,債務不履行及び契約締結上の過失に基づく慰謝料請求が理由のないことは明らかである。