【第50回】不法行為に基づく損害賠償(4)

はじめに

損害賠償義務の発生原因とは、2つに大別され、不法行為に基づくものと、債務不履行に基づくものがあります。

そこで、不法行為に基づく損害賠償について、法律素人が調べてみました。第4回(損害について)です。

損害とは

不法行為に基づく損害賠償請求をするためには、被害者が、「損害が発生したこと」について主張・立証しなければなりません。

通説・判例は、損害の意味を捉える際に、差額説と呼ばれる考え方を基本にしています。

差額説とは、「不法行為がなければ被害者が置かれているであろう財産状態と、不法行為があったために被害者が置かれている財産状態との差額が損害である」とする立場です。

差額計算

通説・判例は、差額説に基づく差額計算にあたり、治療費、交通費、修理費、再調達費用、将来得たであろう収入の減少、介護費用などといったさまざまな個別の項目(個別損害項目)を立て、項目ごとの金額を積み上げることによって差額を算定するという方法(個別損害項目積上げ方式)を採用しています。

その際、個々の損害項目は、その内容に即して、財産的損害と非財産的損害とに分類・整理されます。

また、財産的損害は、さらに、積極的損害(被害者が有している財産を失った)と、消極的財産(被害者が将来得ることができたであろう利益を得られなかった)に二分されます。

具体的損害計算の原則

個別損害項目積上げの際に、「損害項目として何を選定するか」という点(項目の選定)と、「その損害項目にどのような金額をあてるか」という点(金銭評価)について、権利侵害を受けた当該具体的な被害者を基準に決定していくか(具体的損害計算)、社会生活においてその被害者が属するグループの平均的な人を基準に決定していくか(抽象的損害計算)という問題があります。

通説・判例は、具体的損害計算を原則として、差額計算をしています。その基礎にあるのは、

「損害賠償の目的は被害者個人に生じた実損害の填補にあるのだから、被害者の個人的事情を斟酌しなければならない」との考え方です。

損害の主張・立証

被害者が被った損害のうち、財産的損害については、被害者が主張・立証責任を負います。

もっとも、「損害が生じたこと」の主張・立証はされたが、金額について被害者が立証に成功していない場合でも、「損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき」は、裁判所は、「口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果に基づき、相当な賠償額を認定することができる」(民事訴訟法)とされています。

(損害額の認定)
第248条 損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。

これに対して、慰謝料については、

  1. その算定にあたって、裁判官はその額を認定するに至った根拠をいちいち示す必要がなく、
  2. 被害者が慰謝料額の証明をしていなくても諸般の事情を斟酌して慰謝料の賠償を命じることができるし、
  3. その際に斟酌すべき事情に制限はなく、被害者の地位・職業等はもとより、加害者の社会的地位や財産状態も斟酌することができる

としています。慰謝料額をいくらと認定するかについては裁判官の裁量的・創造的役割に全面的に委ねられているのです。