【第68回】不法行為に基づく損害賠償を請求する(3/3)

はじめに

今回、訴状に記載しているとおり、被告らに対して、不法行為に基づく損害賠償を請求しています。

その主張の整理・補強したものとして、第4準備書面を作成し、裁判所と被告ら代理人に送付しました。

その内容について3回に分けて記載します。第3回目です。

第4準備書面の内容

第4準備書面の内容は以下の通りです。

令和3年(少コ)第■■■号 敷金返還等請求事件
原告 Hayato
被告 オーナー会社 外1名

第4準備書面

令和4年■月■日
東京簡易裁判所 民事第■室■係 御中
原告 Hayato  印

(・・・前回からの続き・・・)

第5 被告管理会社に対する損害賠償請求

1 被告管理会社による無権代理行為

 本書面の第2に記載のとおり、被告管理会社は被告オーナー会社から不動産賃貸管理に関する業務を委託され、その対価として報酬を得ている。

 被告管理会社は契約当事者(貸主および敷金返還義務者)ではなく弁護士法人でもないのであるから、その委託業務の範囲には非弁行為(弁護士法72条に違反する行為)は含まれていないところ、本件法的トラブルが生じて(令和3年2月2日)から、(契約当事者である)被告オーナー会社が本件法的トラブルの交渉等について■■弁護士へ委任する(先述のとおり、同年3月12日頃で、少なくとも同年3月7日の時点では委任をしていない。)までの間(以下「無権代理期間」)、被告管理会社は、原告に対して「現在、貸主(建物所有者)はオーナー会社ですが、弊社は貸主代理として賃貸借契約に係る一切の権限を委託されております。」(甲11の1)と被告管理会社に一切の権限がある旨説明し、原告を相手に本件法的トラブルに関するやり取りを行っていることから、被告オーナー会社から委託された権限の範囲を超えた行為(無権代理行為)を行ったのである。なお、無権代理期間中、被告オーナー会社は、自身は貸主ではなく当事者ではないから本件法的トラブルに一切関係ない、と言っていたのであるから、被告管理会社が自ら主体的に無権代理行為を行っていたといえる。以下、被告管理会社が行った当該行為の具体的内容について、被告管理会社が原告に対して直接行った行為と、被告管理会社が自ら委任した■■弁護士を通して行った行為に分けて記載することとする。

2 被告管理会社が直接行った無権代理行為

 (契約当事者でもなく弁護士法人でもない)被告管理会社は、原告を相手に、敷金返還や原状回復をめぐって法的トラブルに発展していたにも拘わらず、貸主である被告オーナー会社の代理人として一切の権限を委託されているので全ての交渉は(被告オーナー会社ではなく)被告管理会社に行うよう原告に要求したうえで(甲11の1)、被告管理会社自ら主体的に、(委託された権限の範囲を超える)以下の行為を原告に対して直接行った。

 (1) 借主として本件特約の無効を主張し、その有効性について貸主側の回答を求める(甲11の2)原告に対して、令和3年2月8日にそれに対する回答をする旨の約束をしたが、その期限になっても回答をせず、それとは別に、本件賃貸借契約の解約および敷金の返還にあたって、敷金返還先口座は借主である原告の口座ではなく法人口座にするよう要求した(甲11の3)。(なお、それに対して原告は、原告の口座で問題ない旨回答したが、結局それに返信はなかった。)

 (2) その後、本件特約の有効性について回答をするよう、原告から改めて催促され、ようやく令和3年2月10日に回答したが、その内容は「契約書に添付されている「退去時の住宅補修査定基準」に基づいている」(甲11の4)というもので、結局、(原告の承認・同意をもって敷金の振込をする約束になっていた(甲11の6、甲11の7)のにも拘わらず)原告の同意もないまま、原状回復費用の請求は適正なものとして、同年2月12日に原告が預け入れた敷金から一方的にその費用分を差し引いて原告口座に残金を振り込んだ(甲11の5)。

 以上のとおり、被告管理会社は、貸主である被告オーナー会社と借主である原告との間で法的トラブルが生じている中、貸主代理として一切の権限は自身にあるとして全ての交渉・質問は自身に行うよう原告に要求しながら、実際のところは、原告からの交渉・質問に対しては、(時間稼ぎを図るために)なかなか回答しなかったり、(本件特約の有効性について、「退去時の住宅補修査定基準」に基づいているから有効である旨主張するのみで、具体的な回答をしないなど)回答したとしてもはぐらかした回答をしたり、また本件賃貸借契約を解約するにあたって敷金返還先に法人口座を原告に要求したりしたうえで、結局は、原告の同意を約束していたにも拘わらず、原告の同意もなしに一方的に敷金から原状回復費用を差し引くなど、原告に対して不誠実で不安や不信感・不快感を与える行為を行った。

3 被告管理会社が■■弁護士を通して行った無権代理行為

 被告管理会社は、上記2の後も、被告オーナー会社が■■弁護士に委任するまでの間に自身のみが委任した同弁護士を通して、(被告オーナー会社から委託された権限の範囲を超える)以下の行為を行った。

 (1) 訴状に記載のとおり、当初は、本件特約の「生活することによる汚損について、・・・」を理由に原告に工事代金の2分の1を請求していたところ、すべての損耗が善管注意義務違反(特別損耗)であり本来は100%原告負担ではあるものの原告負担を軽減するため2分の1のみの請求とした、という説明に変更し、原告に揺さぶりをかけた。

 (2) 訴状に記載のとおり、被告管理会社の説明が合理性に欠ける旨の原告からの指摘を受けて、「貴殿(原告)の負担を軽減させるために通知人において比較的軽微な汚損部分、破損部分については全部ないし一部の請求を控えたに過ぎ」ず、原告が今後も主張を続けるのであれば、「通知人としても残額についての請求を検討せざるを得」ない(甲3の2)などという言い回しを用いて原告に圧力を与える回答を行った。

(3) 訴状に記載のとおり、退去立ち会いがなしになった経緯(本書面の第3に記載)について、「原告が立会を拒否」したとし、原告に非があるような回答をした。

 以上のとおり、(自身は貸主でなく当事者ではないから本件法的トラブルに一切関係ないと被告オーナー会社が言っているなか、)被告管理会社は、(自身が委任した■■弁護士を通して、)原告が交渉を断念(して泣き寝入り)するよう、情報の質・量および交渉力の劣る原告に対して揺さぶりや圧力をかけたり、不快感を与えたりするような行為を行った。

4 被告管理会社の行為の違法性について

(1)被告管理会社による上記2および3の行為については、弁護士資格を有しない者が、報酬を得る目的で行った法律事務を行っていることから、弁護士法72条に抵触する可能性が高く非弁行為に該当する可能性が高いことから、十分な違法性を有しているといえる。

 すなわち、同法72条において、弁護士又は弁護士法人でない者が取り扱うことのできない「法律事件」とは、法律事項の権利義務に関して争いや疑義がある案件または新たな権利義務関係の発生する案件をいう(東京高判昭和39年9月29日)ところ、「法律事件」にあたるか否かの判断に関しては、代表的な判決において、「交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。」とある(最判平成22年7月20日)(甲12の1)。

 (2) この点を本件法的トラブルについてみると、原状回復費用等における負担額について、原告と被告らの間で金額に折り合いがつかず明らかにトラブルに発展しており、交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件であったといえる。そして、交渉中にも拘わらず、(また、原告の合意をもって、との約束をしていたのにも拘わらず、)被告管理会社は、まだ折り合いがついていない原状回復費用等を敷金から一方的に差し引いた上で原告口座に残金を振り込んでいる。

 (3) そして、一般的に、不動産の管理会社が、賃貸借契約終了時に、原状回復の内容(範囲・程度)や原状回復費用の金額、敷金の返還の有無・金額について賃貸人と賃借人の間で争いがある場合には、管理会社が単独で対応を行うと非弁行為となりうることは、不動産業界では常識であり、ましてや交渉中に、一方的に敷金を振り込むことは、よりいっそう違法性が高い(甲12の2、甲12の3)。

   よって、被告管理会社が、刑事上の被告人として責任を問われることがなかったとしても、少なくとも、民事上の違法性は十分に高いと思われる。

 (4) 以上より、被告管理会社による上記2および3の行為については、十分な違法性を有しているといえる。
 なお、上記3の被告管理会社の行為は、弁護士を通しての行為であるから非弁行為に該当しない可能性があるが、被告オーナー会社から被告管理会社に委託される業務に非弁行為が含まれない(仮に含まれていたらその業務委託契約自体が無効となり、結果、被告管理会社に権限はない)以上、被告管理会社から弁護士に委任される権限もその範囲に限定されるところ、その範囲を超えた行為(無権代理行為)を行ったのであるから、不法行為責任を免れない。

5 慰謝料の請求

被告管理会社による上記2および3の行為は、(自身は被告オーナー会社の代理人であり、それにより報酬を得ているのであるから)情報の質・量および交渉力に劣る原告の泣き寝入りを図る意思に基づく故意、または、(不動産賃貸管理を業とする法人であるにも拘わらず)貸主からの委託内容の範囲について注意を払わなかった過失によるものであり、原告はこの繰り返し行われた被告管理会社の無権代理行為の結果、時間的、精神的な負担を強いられたのであるから、不法行為に基づく損害賠償請求として被告管理会社に対し慰謝料の支払を求めている。

以上