【第69回】弁護士法72条違反の事例

はじめに

原告第4準備書面では、相手方の行為が弁護士法72条に違反する行為(非弁行為)である旨(少なくとも民事上の違法性あり)、主張しました。

そこで、弁護士法72条違反の罪が成立するとされた事例について記載します。

最判平成22年7月20日

弁護士法違反事件の判例について記載します。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人両名の弁護士■■の上告趣意は、憲法違反、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論にかんがみ、職権で判断する。
原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。すなわち、不動産売買業等を営むA社(以下「A社」という。)は、ビル及び土地の所有権を取得し、当該ビルの賃借人らをすべて立ち退かせてビルを解体し、更地にした上で、同社が新たに建物を建築する建築条件付きで土地を売却するなどして利益を上げるという事業を行っていた。A社は、上記事業の一環として、本件ビルを取得して所有していたが、同ビルには、74名の賃借人が、その立地条件等を前提に事業用に各室を賃借して、それぞれの業務を行っていた。土地家屋の売買業等を営む被告人B社の代表取締役である被告人Cは、同社の業務に関し、共犯者らと共謀の上、弁護士資格等を有さず、法定の除外事由もないのに、報酬を得る目的で、業として、A社から、本件ビルについて、上記賃借人らとの間で、賃貸借契約の合意解除に向けた契約締結交渉を行って合意解除契約を締結した上で各室を明け渡させるなどの業務を行うことの委託を受けて、これを受任した。被告人らは、A社から、被告人らの報酬に充てられる分と賃借人らに支払われる立ち退き料等の経費に充てられる分とを合わせた多額の金員を、その割合の明示なく一括して受領した。そして、被告人らは、本件ビルの賃借人らに対し、被告人B社が同ビルの所有者である旨虚偽の事実を申し向けるなどした上、賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いもしながら、約10か月にわたり、上記74名の賃借人関係者との間で、賃貸借契約を合意解除して賃貸人が立ち退き料の支払義務を負い、賃借人が一定期日までに部屋を明け渡す義務を負うこと等を内容とする契約の締結に応じるよう交渉して、合意解除契約を締結するなどした。
所論は、A社と各賃借人との間においては、法律上の権利義務に争いや疑義が存するなどの事情はなく、被告人らが受託した業務は弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものではないから、同条違反の罪は成立しないという。しかしながら、被告人らは、多数の賃借人が存在する本件ビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を、報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し受託したものであるところ、このような業務は、賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。そして、被告人らは、報酬を得る目的で、業として、上記のような事件に関し、賃借人らとの間に生ずる法的紛議を解決するための法律事務の委託を受けて、前記のように賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いもしながら、これを取り扱ったのであり、被告人らの行為につき弁護士法72条違反の罪の成立を認めた原判断は相当である。
よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。