【第73回】相手方の準備書面(3)第2回

はじめに

期限から2週間経過後、ようやく被告らから追加の準備書面と証拠書類が送付されてきましたので、その内容について記載します。第2回です。

※この準備書面における主張および証拠は、最終期日にて、時機に遅れた攻撃防御方法として却下されました。

準備書面(3)の記載内容

準備書面(3)の記載内容は以下の通りです。長文ですので、複数回にわたって記載します。

(・・・続き・・・)

第2 本件特約の有効性について

1 本件賃貸借契約において、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されており、また賃貸人側による説明によって賃借人が特約内容を明確に認識したうえで合意されたものであることから、本件特約は有効である。

2 過去の裁判例

賃貸借契約において、賃借人に通常損耗についての原状回復義務が認められる要件として、過去の裁判例において「少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書で明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当」である旨判示されている(最高裁平成17年12月16日判決・判タ1200号127頁)。
その後、東京地方裁判所において「乙(賃借人)が設置した造作、内装その他の設備、物件を撤去し、且つ又その他の施設即ち床、壁を完全に新たにし、天井をペンキ塗装し、甲(賃貸人)の判断により備品、付属品に破損異常があれば修理し或いは清掃し、エアコンはオーバーホールし、表示物件(本件物件)を事実上の原形即ち入居時の状態に回復する」との規定がある事業用賃貸借において、特約の有効性が争われた事案について、上記最高裁判決をふまえて、契約文言及び契約成立に関する事実関係を認定したうえで「単に賃借人が通常損耗につき原状回復義務を負担することのみならず、賃借人が負担する原状回復工事の内容が契約の条項自体に具体的に定められているから、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているということができる」と判示し(東京地裁平成23年6月30日判決)、特約の有効性を認めている。

3 本件特約が有効であること1(賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されていること)

(1)本件特約イは上述のとおり民法の一般原則を注意的に定めたものであるため、当然に有効である。
本件特約ア及びウについても以下のとおり上記判例の理論に照らして有効である。
(2)本件では、契約書と一体となる「退去時の住宅補修査定基準」(乙1及び乙5)において、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が具体的に明記されている。この点、以下において、本件で原状回復が問題となる16項目の損傷部位ごとに説明する。

ア ①から⑧について
①玄関・廊下 壁クロス張替(乙6・1番、2番)
②洋室8.1帖 壁クロス張替(乙6・15番、16番)
③洋室8.1帖 クローゼット壁・天井クロス張替(乙6・44乃至46番)
④洋室6.4帖 壁クロス張替(乙6・40番、41番)
⑤リビング 壁クロス張替(乙6・31番乃至34番)
⑥キッチン壁 クロス張替(乙6・22番乃至24番)
⑦洗面所壁 クロス張替(乙6・7番、8番)
⑧トイレ壁 クロス張替(乙6・42番、43番)
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退去時の住宅補修査定基準「壁・天井」「クロス」に該当
(・・・省略)
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イ ⑨リビング 網戸張替について
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退去時の住宅補修査定基準「襖・障子」「引出その他金物」に該当
(・・・省略)
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ウ ⑩から⑬まで
⑩玄関・廊下 床上張り 材工共
⑪リビング 床上張り 材工共
⑫洋室8.1帖 床上張り材工共
⑬洋室6.4帖 床上張り材工共
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退去時の住宅補修査定基準「床」「フローリング」に該当
(・・・省略)
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エ ⑭ 玄関 靴箱ダイノック張替
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退去時の住宅補修査定基準「壁・天井」「板張り(化粧ベニア、ボード類等)」に該当
(・・・省略)
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オ ⑮洋室8.1帖 入口枠 ダイノック張替 材工共
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退去時の住宅補修査定基準「壁・天井」「塗装」に該当
(・・・省略)
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オ ⑯ルームクリーニングについて
本件特約アで認められているもの。

(3)以上の規定については、上記平成23年東京地裁判決が認定している「乙(賃借人)が設置した造作、内装その他の設備、物件を撤去し、且つ又その他の施設即ち床、壁を完全に新たにし、天井をペンキ塗装し、甲(賃貸人)の判断により備品、付属品に破損異常があれば修理し或いは清掃し、エアコンはオーバーホールし、表示物件(本件物件)を事実上の原形即ち入居時の状態に回復する」との規定と比較してもその工事の内容が十分に具体的であり、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が明確である。
むしろ、このような記載では不十分であると考えるのであれば、実際に入居時点において、いつ到来するかさえ不明確な退去時に行う施工方法の特定はできないことから、事実上特約をすべて無効であると判断するに等しく、上記平成17年最高裁判決の判示に反することは明らかである。
よって、本件物件の損傷部位に関しては、契約書と一体となる「退去時の住宅補修査定基準(乙1及び乙5)において、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が具体的に明記されており、本件特約は有効である。

(続く、、、)

原状回復義務に関する民法の規定

相手方の準備書面で、「民法の一般原則」との記載がありますが、賃借人の原状回復義務に関する民法の規定は621条にあたるかと思います。

(賃借人の原状回復義務)
第621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。