【第87回】時機に後れた攻撃防御方法2

はじめに

第1審の最終口頭弁論期日にて、被告らの提出した主張・証拠が、時機に後れた攻撃防御方法として却下されました。

そこで「時機に後れた攻撃防御方法」について調べてみたいと思います。その第2回です。

東京高判平成22年11月30日

「時機に後れた攻撃防御方法」に関する判例です。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/889/080889_hanrei.pdf

一部を抜粋してみようと思います。

下線は私が引いています。一部マスキングしています。

主    文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人(第1審本訴原告・反訴被告)の負担とする。
当審における主張(時機に後れた攻撃防御方法の却下について)
原告の主張

原判決は,原審の第10回弁論準備手続期日(平成21年5月25日)の後に提出された原告準備書面(8),同(9),同(7-2),同(10),同(11),原告最終準備書面及び原告準備書面(12)各記載の主張,並びに,甲80から97まで(以下,これらを総称して「対象攻撃防御方法」という。)を,時機に後れた攻撃防御方法として却下した。
 
 しかし,上記却下は,次のとおり,民事訴訟法157条1項に規定する要件を欠き,原判決は,同項の解釈適用を誤ったものであるから,取り消されるべきである。

 ア 民事訴訟法157条1項は,攻撃防御方法が「時機に後れて提出」されたことを却下の要件として規定するが,対象攻撃防御方法の提出は時機に後れていない。
 原告最終準備書面及び原告準備書面(12)を除く対象攻撃防御方法は,争点及び証拠の整理の手続である弁論準備手続中に提出されたものであり,同手続中に提出された攻撃防御方法は,特段の理由がない限り,時機に後れて提出されたということはできないが,以下のとおり,対象攻撃防御方法の提出が時機に後れたと判断すべき特段の理由はない。
 すなわち,原告は,早期の和解を希望しており,原審の第10回弁論準備手続期日において,和解手続に入るための主張立証は尽くした旨を主張し,第11回弁論準備手続期日以降は和解案の検討が行われたが,裁判所が適宜開示する心証が原告の確信と相違すると理解したため,弁論準備手続中に主張立証の補充を行った。また,受命裁判官は,第11回弁論準備手続期日において,和解の試みがなされている間はそれらの陳述等はさせないが,和解が不調に終われば陳述等をさせる旨約束していた。さらに,受命裁判官は,平成21年10月21日の第16回弁論準備手続期日において,「当事者双方に対し,主張立証の補充があれば,同年11月10日までに提出すること」を命じており,これは,民事訴訟法170条5項,162条に基づき,準備書面の提出及び証拠の申出をすべき期間を定めたものであるから,少なくとも,同日までに提出された書面は「時機に後れて提出」されたとはいえない。

 イ 民事訴訟法157条1項は,「訴訟の完結を遅延させること」を却下の要件として規定するが,対象攻撃防御方法の提出は訴訟の完結を遅延させていない。
 すなわち,「訴訟の完結を遅延させる」とは,当該攻撃防御方法が提出されなかったならば訴訟を完結できたであろう時期よりも,その提出を認めて審理した場合の訴訟の完結の時期が遅れることをいうところ,本件において,対象攻撃防御方法が提出されなかったとしても,原審の第10回弁論準備手続期日で訴訟が完結することはなく,弁論準備手続は第16回まで続き,更に第2回口頭弁論期日が開かれた。そして,被告らは,同期日までに対象攻撃防御方法に対する反論,反証を提出している。対象攻撃防御方法において,原告は,被告らによる債務不履行として平成15年合弁契約9条3項,23条及び平成16年運営契約8条1項違反があることを新たに主張したが,各契約の全内容は従前の訴訟資料の範囲に含まれているから,かかる主張が訴訟の完結を遅延させることはない。また,甲80から97までの書証は,被告らがその成立を争っていないから,直ちに取調べが可能であり,その提出は訴訟の完結を遅延させない。

 ウ 法律上の主張は,原審の第10回弁論準備手続期日後に提出されても,訴訟の完結を遅延されるとはいえないから,民事訴訟法157条1項により却下されることはないと解すべきである。原告は,当初から,被告●●において,平成19年6月21日及び同月28日の取締役会決議により偏頗な執行役員制を導入し,原告が被告●●の業務執行権を有する代表取締役として指名・選任したC(以下「C」という。)から業務執行権を奪ったことが,平成15年合併契約及び平成16年運営契約に違反する債務不履行であると主張している。そして,これらの契約のどの条項に違反するかは契約解釈に関する法律上の主張であるから,対象攻撃防御方法の中で,「原告の反対にもかかわらず,被告らが,原告の指名した代表取締役から業務執行権を剥奪することとなる定款変更,執行役員規程制定及びそれらに沿った役員人事を実行した行為自体が,平成15年合併契約9条3項及び23条,並びに,平成16年運営契約8条1項にも違反する。」と主張したとしても,時機に後れた攻撃防御方法とはいえない。
被告らの主張

ア 原判決が,民事訴訟法157条1項に基づき,対象攻撃防御方法を時機に後れた攻撃防御方法として却下したことは正当である。すなわち,

 (ア) 原告は,原審の第10回弁論準備手続期日において,本件訴訟の争点について「主張を尽くしている」旨主張したが,その時点までに,平成15年合弁契約9条3項違反の主張はなく,同期日に,受命裁判官が,当事者双方にこれ以上の主張,立証がないことを確認の上,次回以降を和解検討の期日とすることを明言し,心証を開示して和解案の検討を求めたところ,原告は,第11回弁論準備手続期日以降,平成15年合弁契約9条3項違反の主張を含む新たな主張や証拠を提出したのである。原告は,より早期に平成15年合併契約9条3項違反の主張を行うことができたはずでありこのような原告の対応は計画的審理の要請(民事訴訟法147条の2)に反し,対象攻撃防御方法の提出は時機に後れたものというべきである。
 なお,受命裁判官は,一貫して「和解案の検討に入る前に,全て主張は足りている」との意向を示しており,第16回弁論準備手続期日において,「当事者双方に対し,主張立証の補充があれば,平成21年11月10日までに提出すること」を命じたのは,「既に十分な資料は提出されていると考えており,新たな主張を追加されても,判決の中で時機に後れたとの判断をするかもしれないが,書面を一切受け付けないということでもないので,追加したい書面があれば同日までに提出して構わない」との趣旨である。

 (イ) 仮に,対象攻撃防御方法の提出が時機に後れた攻撃防御方法として却下されなかった場合,被告らは,原告の新たな主張について反論を余儀なくされ,また,成立に争いのない書証についても,提出されれば,膨大な量の書証について反証をせざるを得ないため,提出されなかった場合に比べて,訴訟完結の時期が遅れることは明らかであり,対象攻撃防御方法の提出は訴訟の完結を遅延させるというべきである。

 (ウ) 原告は,対象攻撃防御方法中の「被告らが,原告の指名した代表取締役から業務執行権を剥奪することとなる定款変更,執行役員規程制定及8びそれらに沿った役員人事を実行した行為自体が,平成15年合併契約9条3項及び23条,並びに,平成16年運営契約8条1項にも違反する」旨の主張は,契約解釈を争点とするものであるから,時機に後れた攻撃防御方法とはいえないと主張する。しかし,同主張は,契約解釈のみを争点とするものではなく,被告●●が新たに導入した執行役員制度の下で,代表取締役の業務執行権のうち,執行役員に委託されたもの以外に,C代表取締役社長補佐の独自の業務執行権が存在したか否かなどの事実認定上の争点を含むものであるから,全体として,時機に後れた攻撃防御方法といえる。

 イ 原告は,控訴審において,対象攻撃防御方法と同一内容の主張を行い,同一の証拠を引用するとともに,控訴理由書において一部原審で主張されなかった事実も主張し,新たな証拠を提出する。しかし,原判決が対象攻撃防御方法を時機に後れたものとして正当に却下し,控訴審においても対象攻撃防御方法の提出を許すべき新たな事情が存在しない以上,これらの主張,証拠は時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
当裁判所の判断
当審における判断(時機に後れた攻撃防御方法の却下について)

(1) 原審における攻撃防御方法の提出の可否に関する判断の当否について
 原告は,原審が対象攻撃防御方法の提出を却下した決定について,その取消しを求めるとともに,当審においても,同一の証拠方法について再度の申請をしている。したがって,当裁判所は,原審の証拠採否の判断の当否を判断する必要はなく,再度の証拠申請について判断をすれば足りるものと解する。

 念のため,以下のとおり判断する。当裁判所は,原審第10回弁論準備手続期日(平成21年5月25日)の後に提出された対象攻撃防御方法を,時機に後れた攻撃防御方法として却下した原審の証拠採否の判断に違法はないと解する。その理由は,以下のとおりである。

 ア 原告は,対象攻撃防御方法の提出は時機に後れていないと主張する。しかし,原告の主張は,採用できない。すなわち,記録によれば,原審において,平成21年3月25日の第8回弁論準備手続期日に原告が陳述した原告準備書面(6)には「訴状,原告準備書面(1)~(6)(各訂正書を含む。),反訴答弁書にて,本件本訴・本件反訴につき,主張・立証を尽くした。」と記載されていること,同年4月22日の第9回弁論準備手続期日に,受命裁判官が,本訴・反訴を通じ,原告,被告●●の書面提出期限を同年5月20日とし,被告らについて,原告の主張に対する反論の補充があれば同日までに提出するよう述べ,同月25日の第10回弁論準備手続期日に原告が陳述した原告準備書面(7)には,本件訴訟の争点につき,「●●(判決注 原告を指す。)は,原告準備書面(6)の全部,原告準備書面(5)の全部,原告準備書面(4)の全部,原告準備書面(3)の全部,原告準備書面(2)の全部,原告準備書面(1)の第1~第4において,●●の主張を尽くしている。」と記載されていること,第11回弁論準備手続期日以降,同手続の終結に至るまでの間,準備書面の陳述及び証拠の取り調べはなされず,和解案の検討のみが行われていること,同年11月13日の第2回口頭弁論期日において,裁判長が,対象攻撃防御方法の準備書面を含む未陳述の準備書面について,「本訴及び反訴当事者双方にこれ以上の主張・立証がないことを確認の後,和解の可能性を検討する期日において提出されたものである。」と述べていることが認められる。一方,原告準備書面(6)及び(7)の上記各部分が和解手続を促進する目的で陳述されたとか,受命裁判官が,原告に対し,和解が成立しなければ新たな攻撃防御方法の提出を許可する旨述べた等の事実を認めるに足りる資料は一切見当たらない。
 以上の事情を総合すれば,原審の第10回弁論準備手続期日の時点において,担当裁判官及び原告を含む各当事者は,同期日までに争点及び証拠の整理を終え,その後の弁論準備手続では和解案の検討を行うとの認識で一致していたことは明らかであり,原告において,同期日までに対象攻撃防御方法を提出することが困難であったとの事情はうかがえない。そして,このことからすると,受命裁判官が,同年10月21日の第16回弁論準備手続期日において,「当事者双方に対し,主張立証の補充があれば,平成21年11月10日までに提出すること」を命じたのは,第10回弁論準備手続期日までに提出されなかった新たな主張やそれに関する証拠が提出されることを許容する趣旨ではないと解すべきである。したがって,原告が,第10回弁論準備手続期日の後に対象攻撃防御方法を提出したことは,時機に後れたものというべきである。

 イ また,原告は,対象攻撃防御方法は,被告らの反論,反証も含めて,第2回口頭弁論期日で直ちに主張し,あるいは,取り調べることができたものであるから,その提出は訴訟の完結を遅延させていない旨主張する。
 しかし,原告の上記主張も採用できない。すなわち,裁判所及び各当事者が,争点及び証拠の整理を終えたとの認識で一致したにもかかわらず,その後,裁判所が,一方の当事者からの新たな攻撃防御方法の提出を認める場合には,反対当事者による反論やこれを裏付ける立証の機会を付与することによって,適正かつ公平な審理を確保することが必要となり,さらに,再反論及びこれを裏付ける立証の機会を付与することも必要となり,新たな攻撃防御方法の追加等の余地が生じ,訴訟の完結が遅延することになる。本件では,被告らから,平成21年7月8日付け「時機に後れた攻撃防御方法却下の申立書」が提出されており裁判所が第2回口頭弁論期日において,対象攻撃防御方法の却下をも視野に入れた訴訟指揮を行った結果,同期日において弁論を終結した。本件の事案にかんがみ,対象攻撃防御方法の提出は訴訟の完結を遅延させると解するのが自然である。
 ウ さらに,原告は,当初から,被告●●において,偏頗な執行役員制を導入し,Cから業務執行権を奪ったことが,平成15年合併契約及び平成16年運営契約に違反する債務不履行であることを争点としていたのであるから,対象攻撃防御方法の中で,被告らが,原告の指名した代表取締役から業務執行権を剥奪することとなる定款変更,執行役員規程制定及びそれらに沿った役員人事を実行した行為自体が,平成15年合併契約9条3項及び23条,並びに,平成16年運営契約8条1項にも違反する旨を争点とすることは,時機に後れた攻撃防御方法とはいえないと主張する。
 しかし,この点の原告の主張も失当である。
 対象攻撃防御方法における原告の主張は,執行役員制度の導入がCの業務執行権を剥奪することを前提とするものであるが,このような前提は,法律上当然に導かれるわけではなく,具体的な事実認定を要する問題である(被告らが,執行役員制度の導入によりCの業務執行権が剥奪されるとの事実を認めているともいえない。)。そうすると,原告の上記主張は,事実に関する主張を含むものであり,時機に後れて提出された場合,被告らに反論,反証の機会を与えない限り,適正かつ公平な判断を確保することができないものであり,訴訟の完結が遅延するから,民事訴訟法157条1項による却下の対象になるというべきである。
 エ したがって,原判決が,対象攻撃防御方法を時機に後れた攻撃防御方法として却下したことは正当と認められ,原告の主張は採用できない。

(2) 当審における攻撃防御方法の提出の可否について
 原告は,当審において,対象攻撃防御方法と同一及び新たに付加した攻撃防御方法を提出する。
 上記(1) と同様の理由により,対象攻撃防御方法と同旨の攻撃防御方法は,次のとおり,時機に後れたものとして却下する。ア ・・・