【第88回】時機に後れた攻撃防御方法3

はじめに

第1審の最終口頭弁論期日にて、被告らの提出した主張・証拠が、時機に後れた攻撃防御方法として却下されました。

そこで「時機に後れた攻撃防御方法」について調べてみたいと思います。その第3回です。

東京高判平成20年9月25日

「時機に後れた攻撃防御方法」に関する判旨です。

下線は私が引いています。

(1)本件には、売買契約の締結当時、規制の対象とされていなかった物質(ふっ素)が存在していたことが、売買契約の目的物たる土地の「暇庇」に当たるのかという問題がある。しかし、ここでは民570条の実体的暇祇の判断基準に係わる議論には深入りすることなく、専ら控訴審でのXの主張(の変更)が時機に後れた攻撃防御方法に当たるとするYの主張の当否という手続的な問題に焦点を絞りたい。

(2)控訴人は、当審において、本件売買契約締結当時本件土地の土壌がふっ素で汚染されていたことが本件土地の隠れた暇庇であるというべきであり、この暇庇が本件都条例の制定、施行により顕現化された旨の主張をするところ、被控訴人は、控訴人の上記主張が時機に後れた攻撃防御方法に当たるとし、民事訴訟法157条に基づく却下の決定を求める旨の申立てをしたので、まず、この申立てについて判断する。控訴人は、原審において、
(ⅰ)本件売買契約締結当時、控訴人は、本件土地がふっ素等で汚染されていたことを知らなかったとし、その後本件都条例が施行され、本件土地の土壌汚染調査を実施したところ、本件土地の土壌は、ふっ素等の有害物質により、本件都条例で定められた土壌汚染処理基準を遥かに超えて汚染されていることが明らかになったとし、本件都条例により、控訴人が本件土地を公園として使用することは本件土地の改変となり、これに伴う汚染拡散防止措置を必要とすることになったとし、本件都条例の規制を受けること自体本件土地に民法570条にいう隠れた暇庇があるというべきである旨主張し(訴状、原告平成19年2月21日付け準備書面)、
(ⅱ)本件売買契約締結当時、本件土地はふっ素等で汚染されていたが、本件都条例はいまだ制定されていなかったこと、その後本件都条例が施行され、控訴人が本件土地を公園用地として使用するについて本件都条例117条1項、同条3項及び4項により本件土地の土壌汚染調査及び汚染の拡散防止措置を行わなければならないという新たな規制を受けるに至ったこと、本件都条例により本件土地について上記のような規制を受けること自体が本件土地に暇庇があったというべきであること、本件土地に民法570条にいう隠れた暇疲があると主張する根拠は、ふっ素等によって本件土地の土壌が汚染されていること自体を主張するものではなく、本件都条例によって定められた土壌汚染調査を行った結果、汚染が認められた場合には、汚染の拡散防止措置を執らなければならず、これを行わずには本件土地を公園用地として改変することができないという新たな規制を受けるに至ったのであり、そのこと自体が本件土地に新たに暇庇があると本件都条例により公的に確認されたことを示すものである(本件都条例により隠れた暇漉として公的に顕現化された)と主張するものであること、以上のとおり主張し(原告平成19年4月11日付け準備書面)、
(iii)さらに、本件売買契約締結当時本件土地の土壌がふっ素等によって汚染されていたことは疑いのない事実であるが、当時本件都条例が施行されておらず、控訴人は上記土壌汚染が本件土地の使用に影響する暇庇と考えることができなかったのであるから、本件都条例が制定、施行され、工事費用の負担が生じたことで、売主の暇庇担保責任が発生することとなったと主張していた(原告平成19年5月30日付け準備書面)。

これによれば、控訴人は、原審において、法的構成としては、文言上、本件土地に民法570条にいう隠れた暇庇があると主張する根拠として、ふっ素等によって本件土地の土壌が汚染されていること自体を主張するものではなく、本件都条例によって定められた士壌汚染調査を行った結果、汚染が認められた場合には、汚染の拡散防止措置を執らなければならず、これを行わずには本件士地を公園用地として改変することができないという新たな規制を受けるに至ったことをもって、本件土地に民法570条にいう隠れた暇班があると主張していたものといわざるを得ないが、他方、控訴人の原審における主張の全趣旨にかんがみれば、控訴人は、①本件売買契約締結当時本件土地の土壌中にふっ素が(大量に)存在していたこと、②その後本件都条例が施行され、土壌汚染調査により、本件土地の土壌がふっ素等の有害物質で本件都条例で定められた土壌汚染処理基準を遥かに超えて汚染されていることが明らかになったため、本件都条例により、控訴人が本件土地を公園として使用することは本件土地の改変となり、これに伴う汚染拡散防止措置を必要とすることになったこと、③そのこと自体が本件土地に新たに暇価があると本件都条例により公的に確認されたことを示すものであることを主張していたのであり、上記①が上記②の不可欠の前提であることは客観的に明らかであったから、控訴人は、本件請求の根拠として、上記①及び②を主張していたものというべきである。控訴人は、本来ならば、法的構成としても、上記①及び②を根拠に、本件土地に民法570条にいう隠れた暇価があるというべきであると明示的に主張すべきであったのであり、明示的にそのように主張していれば、原審においても、控訴人が上記①と切り離して上記②だけを主張しているものと誤解されることはなかったというべきである。したがって、控訴人に法的構成における誤りがあったことは否定し難いが、その誤った法的構成においても、上記①が事実主張としては不可欠の前提であることは動かし難いから、控訴人は、原審においても、本件請求の根拠として、上記①及び②を主張していたものというべきである。
控訴人は、当審において、本件売買契約締結当時本件土地の土壌中にふっ素が(大量に)存在しており、土壌汚染が生じていたのであり、このことが本件土地の隠れた暇庇であるというべきであって、この暇疲が本件都条例の制定、施行により顕現化された旨の主張を明示的にするに至ったが、控訴人の当審における上記主張は、本件請求の根拠として上記①及び②を主張するものであり、原審における控訴人の主張の全趣旨を変更するものではなく、法的構成における誤りを正したにすぎないものというべきである。
以上によれば、控訴人が当審において上記のとおり主張して法的構成における誤りを正したことは、控訴人が時機に後れて攻撃方法を提出したことには当たらないから、民事訴訟法157条に基づく却下の決定を求める被控訴人の申立ては理由がないというべきである。

時機に後れたとは、、

「時機に後れた」とは、攻撃防御方法が提出されるまでの訴訟の進行状況などに照らして、より早期の提出が期待できたことを指し、単に期日の回数を重ねていることのみが基準となるわけではなく、たとえば、裁判所が一定の期間を定めて攻撃防御方法の提出を求めた場合(民訴法162条)や、当該攻撃防御方法に関して以前に裁判所が釈明したが、当事者が応じなかった場合に、その後その攻撃防御方法を提出するのは、時機に後れたものとなる。

準備書面等の提出時機

(準備書面等の提出期間)
第百六十二条 裁判長は、答弁書若しくは特定の事項に関する主張を記載した準備書面の提出又は特定の事項に関する証拠の申出をすべき期間を定めることができる。

控訴審での攻撃防御方法の提出時機

(攻撃防御方法の提出等の期間)
第三百一条 裁判長は、当事者の意見を聴いて、攻撃若しくは防御の方法の提出、請求若しくは請求の原因の変更、反訴の提起又は選定者に係る請求の追加をすべき期間を定めることができる。
2 前項の規定により定められた期間の経過後に同項に規定する訴訟行為をする当事者は、裁判所に対し、その期間内にこれをすることができなかった理由を説明しなければならない。
上記2項で、合理的な説明がないときには、「時機に後れた」ものと考えられます。