はじめに
敷金返還請求事件の控訴審において、先日、裁判所から和解案が送付されてきました。
今回はその内容について記載しようと思います。
裁判所の和解案
令和4年■第■■■号 敷金返還等請求控訴事件
和解案
民事第■部■係
当裁判所が提示する和解案は次のとおりである。
第1 和解の骨子
控訴人は、被控訴人に対し、敷金の返還として、■■万■■円を支払う。
第2 理由
1 通常損耗に該当する部分について賃借人に原状回復義務を負わせるには、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているなど、その旨の特約が当事者間で明確に合意されていることが必要(最高裁平成17年12月16日判決)である。
本件賃貸借契約においては、契約書(甲1の1)第11上1項で「通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き、本物件を原状回復しなければならない」旨を定め、同3項で、「原状回復の内容・方法及び費用の負担について、甲(控訴人)の定める「退去時の住宅補修査定基準」によるものとする」旨を定めており、これらの文言からは、通常損耗について賃借人が負担することはなく、「退去時の住宅補修査定基準」は、通常損耗を除いた原状回復の基準であると理解される。
これ以外に、通常損耗部分につき被控訴人に原状回復の負担を負わせる契約書本体の規定は見当たらず、また、同書面には「特約」欄にも通常損耗の回復費用を賃借人に負担させることに関する記載はない。確かに、契約書の付属書面であって、被控訴人が甲契約書本体と同日に自らサインした賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書(甲1の2・乙4)には、①通常損耗に該当する部分も含め、室内全体のハウスクリーニング費用は賃借人の負担とし、さらに、②通常損耗に該当する生活することによる汚損の復旧費用は、賃借人が2分の1を負担する旨の記載があるが、その結果、本件賃貸借契約書と賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書の規定内容は異なるものになっているというべきであって、賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書の内容が優先する旨の記載もないことからすると、通常損耗部分の負担について契約書上明確に規定されているとは言えないし、別途口頭での明確な合意があったとの事情も認定できない。
以上のとおり、通常損耗に該当する部分について被控訴人がその費用を負担すること・その金額や範囲を一義的明白に合意しているとは言えず、被控訴人は、通常損耗に該当する部分については原状回復義務を負わない。
2 上記のとおり、被控訴人は、特別損耗に該当する部分についての原状回復費用を負担することとなり、その検討結果は別紙原状回復負担表記載のとおりである。なお、「乙2の3」ないし「乙6」の列に記入された数字は、各工事部位に対応する損耗の態様が示された写真の番号である。下線を引いたものが特別損耗に該当する損傷が存在すると認められたもの、灰色字になっているものは損耗が写真から確認できないもの、斜体になっているものは、一定の損耗は認められるが通常損耗の範囲にとどまると判断したものである。
上記の検討の結果、原状回復費用としては、税込●●円が相当である。そこで、和解案として、各工事部位のうち控訴人主張の被控訴人負担額を超える部分を控除した原状回復費用税込●●円を未返還敷金額●●円から控除した、●●円を提示する。
以上
和解案
民事第■部■係
当裁判所が提示する和解案は次のとおりである。
第1 和解の骨子
控訴人は、被控訴人に対し、敷金の返還として、■■万■■円を支払う。
第2 理由
1 通常損耗に該当する部分について賃借人に原状回復義務を負わせるには、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているなど、その旨の特約が当事者間で明確に合意されていることが必要(最高裁平成17年12月16日判決)である。
本件賃貸借契約においては、契約書(甲1の1)第11上1項で「通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き、本物件を原状回復しなければならない」旨を定め、同3項で、「原状回復の内容・方法及び費用の負担について、甲(控訴人)の定める「退去時の住宅補修査定基準」によるものとする」旨を定めており、これらの文言からは、通常損耗について賃借人が負担することはなく、「退去時の住宅補修査定基準」は、通常損耗を除いた原状回復の基準であると理解される。
これ以外に、通常損耗部分につき被控訴人に原状回復の負担を負わせる契約書本体の規定は見当たらず、また、同書面には「特約」欄にも通常損耗の回復費用を賃借人に負担させることに関する記載はない。確かに、契約書の付属書面であって、被控訴人が甲契約書本体と同日に自らサインした賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書(甲1の2・乙4)には、①通常損耗に該当する部分も含め、室内全体のハウスクリーニング費用は賃借人の負担とし、さらに、②通常損耗に該当する生活することによる汚損の復旧費用は、賃借人が2分の1を負担する旨の記載があるが、その結果、本件賃貸借契約書と賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書の規定内容は異なるものになっているというべきであって、賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書の内容が優先する旨の記載もないことからすると、通常損耗部分の負担について契約書上明確に規定されているとは言えないし、別途口頭での明確な合意があったとの事情も認定できない。
以上のとおり、通常損耗に該当する部分について被控訴人がその費用を負担すること・その金額や範囲を一義的明白に合意しているとは言えず、被控訴人は、通常損耗に該当する部分については原状回復義務を負わない。
2 上記のとおり、被控訴人は、特別損耗に該当する部分についての原状回復費用を負担することとなり、その検討結果は別紙原状回復負担表記載のとおりである。なお、「乙2の3」ないし「乙6」の列に記入された数字は、各工事部位に対応する損耗の態様が示された写真の番号である。下線を引いたものが特別損耗に該当する損傷が存在すると認められたもの、灰色字になっているものは損耗が写真から確認できないもの、斜体になっているものは、一定の損耗は認められるが通常損耗の範囲にとどまると判断したものである。
上記の検討の結果、原状回復費用としては、税込●●円が相当である。そこで、和解案として、各工事部位のうち控訴人主張の被控訴人負担額を超える部分を控除した原状回復費用税込●●円を未返還敷金額●●円から控除した、●●円を提示する。
以上