【第15回】原状回復の特約の合意は成立しているか2

貸主が通常損耗分も借主に負担させる特約について、前回のブログでは最高裁平成17年12月16日判決について紹介しました。

その観点に基づいた他の判例は?

さらに、私の契約の場合は合意は成立しているのでしょうか。

そこで、調べてみました。

東京地裁判例平成29年4月25日

本件の賃貸借契約書では、特約事項及び費用負担について、次のとおりに定めていました。(抜粋)

特約事項

3.解約時の畳・襖・クロス・クッションフロア等の張り替え及び、壁等の塗り替え等その他補修費用は折半とする。但し室内クリーニング・エアコンクリーニング・破損箇所修理は全額借主負担とする。

第6条(費用負担)

1 甲および乙は、別表「補修費負担区分表」(以下「補修区分」という。)の負担者「貸主」に該当する項目については甲が、補修区分の負担者「借主」に該当する項目については乙が、必要な修繕を行わなければならない。

裁判所は、本件約定によって、

通常損耗に係る補修費用を負担する旨の合意が成立しているか、

について、前回のブログで記載した「最高裁平成17年12月16日判決」をもとに検討しています。

・・・本件約定の特約事項の定めは、「解約時の畳・襖・クロス・クッションフロア等の張り替え及び、壁等の塗り替え等その他補修費用は折半とする。但し室内クリーニング・エアコンクリーニング・破損箇所修理は全額借主負担とする。」と記載されているにとどまり、控訴人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲を具体的に明記したものと認めることはできない。また、本件約定中の第6条1及び本件区分表並びに同4の定めについてみても、「項目」欄に本件居室の箇所又は器具が記載され、「内容」欄に作業内容が記載されているにすぎず、各記載から通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとは認めることができない。・・・

契約書のこの程度の記載では、

通常損耗の範囲を具体的に明記したものと認めることはできない。」

とし、他の条項の記載や補修費負担区分表をもってしても、

「通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとは認めることができない。」

ということだと思います。

おさらいですが、「一義的」とは、

意味がただ1つであり、それ以外に意味や解釈がない、誤解の余地がないこと

という意味のようです。実はこの一義的という言葉自体が一義的でないという自説あり。。。(笑)

私の契約の場合はどうなの?

それでは、私の契約の場合は、上記の観点からみて、はたして、どのように判断されるのでしょうか。

私の場合の特約条項ですが、賃貸借契約書の「特約条項」には記載はなく、「賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書」に記載があります。

実は、この説明書には、私自身の記名押印がないのですが、その件については別途記載したいと思います。

【2】当該契約における賃借人の負担内容について

本契約では、特約として以下のことを賃借人の負担で行なうことにしています。

 [1] 室内全体のハウスクリーニング(自然損耗・通常使用による部分も含む)

 [2] 退去時における住宅の損耗等の復旧について

 (1)賃借人の責めに帰すべき事由による汚損又は破損について、その復旧費用は賃借人の負担とすること。

 (2)賃借人が居住中特殊な仕上げを行った場合等について、その復旧費用は賃借人の負担とすること。

 (3)生活することによる汚損について、その復旧費用は賃借人と賃貸人とで2分の1ずつ負担すること。

・・・

上記の記載は、

  1. 通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白でしょうか。
  2. 通常損耗の範囲を具体的に明記しているでしょうか。