【第14回】原状回復の特約の合意は成立しているか1

退去時に、管理会社より、通常損耗分(経年劣化による損耗や通常の使用による住宅の損耗)についても借主負担として、原状回復工事費用を請求されました。

通常損耗分の請求は、通常損耗補修特約に基づくという内容でした。

特約の文言が記載された「賃貸住宅防止条例に基づく説明書」についてはこちらをご覧ください。

退去物件における私の契約に関して、はたして、この特約の合意は成立しているでしょうか。

そこで調べてみました。

最高裁平成17年12月16日判決

平成17年12月16日、賃貸物件の敷金返還訴訟において、最高裁は通常損耗補修特約について判示しております。

裁判所の裁判例検索にて閲覧可能です。

通常損耗分は、通常は、賃料の中に含まれているとの考え方のようです。

賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用と その対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は, 賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃 貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣 化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価 償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより 行われている。

そうすると、通常損耗分の補修を負担させるために必要な要件とは、、、

建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗に ついての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すこと になるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費 用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記 されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により 説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められ るなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されて いることが必要であると解するのが相当である。

と判示しています。そこで、

これを本件についてみると,本件契約における原状回復に関する約定を定 めているのは本件契約書22条2項であるが,その内容は上記1(5)に記載のとおりであるというのであり,同項自体において通常損耗補修特約の内容が具体的に明記されているということはできない。また,同項において引用されている本件負担区分表についても,その内容は上記1(6)に記載のとおりであるというのであり, 要補修状況を記載した「基準になる状況」欄の文言自体からは,通常損耗を含む趣 旨であることが一義的に明白であるとはいえない。

などから、本件契約において通常損耗補修特約の合意が成立しているということはできない、としています。

一般原則として、賃借人は、通常損耗の修復費用を負担しない。

負担させるためには、賃貸借契約書に具体的に明記されているか

賃貸借契約書に明記されてない場合は、賃借人がその旨を明確に認識して合意していること

が必要、ということのようです。

「通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえない」と、

一義的に明白

という表現を使用しています。

「一義的に」とは、どういう意味でしょうか。

ここでの意味は、

意味がただ1つであり、それ以外に意味や解釈がない、誤解の余地がないこと

だと考えます。

この観点に基づいた他の判例や私の契約の場合はどうなの?

について、別途記載したいと思います。