【第91回】控訴答弁書について(その1)

はじめに

簡易裁判所の判決について、相手方が不服ということで、控訴しました。控訴理由書が届きましたので、それに対する反論ということで控訴答弁書を送付しました。

その内容について記載します。第1回です。

控訴答弁書の内容

控訴答弁書の内容は以下の通りです。

令和4年(■)第■■■号 敷金返還等請求控訴事件
控訴人 オーナー会社
被控訴人 Hayato

控訴答弁書

令和4年■月■日
東京地方裁判所 民事第■室■係 御中
被控訴人 Hayato  印

第1 控訴の趣旨に対する答弁

1 本件控訴を棄却する
2 訴訟費用は控訴人の負担とする

との判決を求める。

第2 控訴の理由(控訴理由書の「第3 原判決の審理不尽について」)に対する答弁

控訴人は、原審被告ら準備書面(3)等は却下の要件を満たしておらず、これらを判決の基礎としていない原判決は審理不尽の違法がある旨主張しているので、まず、控訴理由書「第3 原判決の審理不尽について」に対して答弁する。

原審にて、民事訴訟法157条1項により、原審被告ら準備書面(3)等を時機に後れた攻撃防御方法として却下したことは正当であるから、原判決に審理不尽の違法はない。

原審の弁論終結に至るまでの経過、および原審被告ら準備書面(3)等が却下の要件を満たすことについて、以下説明していくが、控訴人は原審において何ヶ月(何期日)にもわたって、主張立証可能な機会が十分にありながら、定められた提出期限を合理的な理由もなく繰り返し徒過、懈怠しており、被控訴人としては、徒に期日を空転させ続けられ、不当に無益な期日を重ねられたと考えていることをここに述べる。

(凡そ40万円の居住用の敷金返還訴訟であるにもかかわらず、訴状提出(令和3年5月19日)から弁論終結した第5回期日(令和4年1月19日)まで8ヶ月も要したのである。)

1 原審の弁論終結に至るまでの経過
原審の弁論終結に至るまでの経過については、原審原告第3準備書面に添付の「経過一覧表」のとおりであり、原審の第4回、第5回調書や裁判所からの令和3年11月17日付事務連絡(甲13)からも明らかである。なお、更新した「経過一覧表」を、本控訴答弁書において別紙として添付するとともに、以下、具体的に説明する。

控訴人は、控訴理由書において、「第1回期日の同月30日に控訴人差し支えのため、事実上の最初の期日は9月8日に設けられた。その後、10月18日、11月23日(原文ママ。正しくは11月24日)の期日が設けられ、控訴人からは準備書面1及び2を提出している。」(控訴理由書20頁)と、何事もなかったかのように記載しているが、弁論終結に至るまでの経緯について記載する。

第1回期日では、原審被告ら(控訴人および原審被告管理会社)差し支えのためいわゆる三行答弁の答弁書が提出され、事実上の最初の期日(第2回期日)は9月8日に設けられ、原審被告ら準備書面が7月31日までに提出されなければ、裁判所から原審被告ら代理人に催告することとなった。

7月31日を超えても原審被告ら準備書面が提出されないため、8月2日に原審原告(被控訴人)は裁判所に連絡し、裁判所から原審被告ら代理人に催告することになったが、結局、第2回期日当日の開廷直前に原審原告へ提出されたため、原審原告は事前に同準備書面に目を通すことができなかった。

そして、同準備書面は(借主と貸主が逆になっているなど)重要な箇所の誤字脱字が多く散見されたため、陳述扱いにはならず、原審被告ら代理人は、裁判官から、きちんと訂正したうえで準備書面(1)を再提出するよう命ぜられた。

また、原審被告らのいずれかが敷金返還義務を負う地位にあるのかを明らかにするために、10月8日までに提出を求められた主張(原審被告ら準備書面(2))も、結局は期限を8日も徒過して、第3回期日(10月18日)の2日前である10月16日に受領したため、原審原告は、その準備書面の内容について十分確認をすることができずに期日を迎える状況となった。

そして、第3回期日では、原審被告ら代理人は、裁判官から期限を遵守するよう求められ、また、本件特約の有効性についての準備書面を11月15日までに提出することになった。(経過一覧表に記載のとおり、原審被告ら代理人が4週間後にしてほしいとの希望があったため、それを考慮しての期限となった。)

それにもかかわらず、原審被告ら代理人は11月15日になっても準備書面を提出しなかった。

さらには、裁判所から、原審被告ら代理人事務所に対して、11月17日付事務連絡(甲13)にて、提出期限を徒過しているため早急な提出を求める旨と「なお、裁判所が定めた提出期限を徒過したのは今回で2度目であり、今後、訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、時機に後れた攻撃防御方法として却下することがある。」(下線は被控訴人が引いた。)と警告までしており、11月17日に同代理人事務所の■■弁護士は、裁判所に受領書をFAX送付しているにもかかわらず、第4回期日(11月24日)当日になっても、結局、準備書面が提出されることはなかった。

そして、第4回期日において、原審被告らが準備書面を提出しなかった点について、裁判官が原審被告ら代理人に確認したところ、原審被告ら代理人の回答は、「提出を懈怠した合理的理由はない。準備に時間を要してしまった。また、提出が遅れることを裁判所に連絡することを失念した。」(第4回調書)というものであった。また、原審被告ら代理人は、それに付け加えて、追加の写真なども含めて翌週の月曜日(11月29日)までには必ず提出する旨釈明しており、それに対して裁判官は、無理して翌週に提出と言わなくていいので12月24日までに提出してもらえれば構わない旨宥めた。

(第4回調書の記録で、「なお、被告らが令和3年11月29日(月)までに提出すると述べた準備書面についても令和3年12月24日までに提出すれば足りる。」と残されたのは、この原審被告ら代理人と裁判官とのやり取りを踏まえてのものと思われる。)

なお、第4回期日では、裁判所から和解案が提示され、次回期日で原則弁論終結予定であること、また、被告ら代理人の書面提出、和解案の諾否、人証申請の期限が12月24日に定められた。

そのうえで、被告ら代理人は裁判官から、主張立証をきちんとしたいのであれば今度こそはきちんと期限を守って書面を提出するようにと、念を押された。

ところが、上記の経緯があったのにもかかわらず、結局、被告ら代理人から12月24日までに準備書面は提出されず、原審被告ら代理人は、12月27日に「ご連絡」という標題の書面(作成日付は、FAX送信日である「12月27日」ではなく、「2021年12月13日」。)にて提出が遅れる旨を一方的に裁判所のみに連絡し、原審被告ら準備書面(3)等が原審原告宅に到着したのは、第5回期日(令和4年1月19日)の約10日前である令和4年1月9日頃であった。

第5回期日にて、原審被告ら準備書面(3)等は時機に遅れた攻撃防御方法として却下され、弁論終結となったが、当該準備書面の提出期限を徒過した理由について、原審被告ら代理人は「事実関係を整理していたためである。」と答えている。

2 原審被告ら準備書面(3)等は却下の要件を満たすこと
原審原告の負担すべき原状回復費用の認定における主な争点は、原状回復に関する本件特約が成立しているか否か(本件特約の有効性)という点と、本件物件の損耗状況や工事方法等からして賃借人である原審原告が負担すべき費用の額はいくらかという点の2点であり、原審被告ら準備書面(3)等はこの主な争点2点に関する主張および証拠である。

そこで、裁判所が、民事訴訟法157条1項に基づいて攻撃防御方法の却下をなすためには、(1)時機に後れて提出されたものであること、(2)それが当事者の故意又は重大な過失に基づくものであること、(3)それについての審理により訴訟の完結を遅延させること、の3つの要件を満たす必要があるが、本件における要件該当性について以下にて検討する。

(1) 時機に後れて提出されたものであること
時機に後れたかどうかは、当該攻撃防御方法が提出されるまでの審理の進行状況を考慮して、より早く、かつ、適切な時機にその提出が期待できたか否かを基準として判断される。

 先述の主な争点2点は、訴訟提起前からの主な争点であったのであるから、それらに関する主張および証拠の提出は期日の初期の時点に行われるべきである。

本件特約の有効性については、少なくとも、第3回期日(令和3年10月18日)にて「被告公社は、令和3年11月15日(月)までに、本件特約の有効性について主張する準備書面を提出されたい。」(第3回調書)となっていたのであるから、それまでに提出されなかった攻撃防御方法については、時機に後れたものとみなされるべきである。

 本件物件の損耗状況については、第2回期日(令和3年9月8日)にて、司法委員立ち会いのもと、原審被告ら代理人から、原審被告ら準備書面(1)の内容についての説明および乙2、乙3の図面・写真を用いて本件物件の損耗状況についての説明が行われた。

 そこで、原審原告第1準備書面4頁に記載のとおり、原審被告ら代理人による説明において、本件物件の損耗状況が不明瞭であったため、原審被告ら代理人は、持ち帰り確認する旨、および写真を別途提出する旨の発言をした。また、裁判官からも必要に応じて写真を追加するよう指摘があった。原審原告第1準備書面4頁について、念のため、以下にも記載する。

————
さらに、第2回期日における下記(ア)から(ウ)のやり取りからすると、被告らの「損傷の程度及び部位についてはこれら(図面及び写真)を参照すれば明らか」(括弧内は原告にて記載)との主張は誤りと言える。

 (ア) 乙2及び乙3の写真を用いて、被告ら代理人から損傷個所の説明があったが、損傷個所を明確に説明できない写真が複数存在した。特に乙2の⑥浴室の下写真及び⑧洋室8.1帖の下写真については、損傷個所を明確に説明できなかったため、被告ら代理人自らが損傷個所について持ち帰り確認するとの発言をした。

(イ) 被告ら代理人は、写真による損傷状況の把握が難しい部位について、必要に応じて損傷状況を把握できる写真を追加するよう、裁判官から指摘を受けた。

(ウ) 乙3の最終頁のクローゼット写真については、被告ら代理人自らが、損傷個所が不明瞭であるため損傷個所を把握できる写真を別途提出する、との発言をした。
————

以上から、本件物件の損耗状況について、追加の写真やその説明等の補充主張・立証の提出は、(その提出が期待できない特段の事情もないのであるから、)第3回期日(令和3年10月18日)までに行われるべきである。

少なくとも、第4回期日(令和3年11月24日)にて「令和3年12月24日までに残りの主張立証(人証申請を含む)をされたい。」(第4回調書)となっていたのであるから、それまでに提出されなかった攻撃防御方法については、時機に後れたものとみなされるべきである。

 よって、原審被告ら準備書面(3)等は、時機に後れて提出されたものとの要件を満たす。

(2) 当事者の故意又は重大な過失に基づくものであること
この要件は、前記(1)の要件とは独立のものであるが、後れて提出されたことについて何らの合理的理由が認められなければ、重過失が推認されると解されている。

 裁判所から原審被告ら代理人弁護士に対する令和3年11月17日付事務連絡(甲13)によると、本件特約の有効性についての主張書面について、その提出期限を徒過しているため早急な提出を求める旨と、「なお、裁判所が定めた提出期限を徒過したのは今回で2度目であり、今後、訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、時機に後れた攻撃防御方法として却下することがある。」と警告しており、同日に同弁護士は受領書を裁判所にFAX送付している。

 それにもかかわらず、原審被告らは上記主張書面を第4回期日(令和3年11月24日)になっても提出せず、同期日にて、「提出を懈怠した合理的理由はない。準備に時間を要してしまった。」(第4回調書)と釈明している。

 また、同期日にて、「令和3年12月24日までに残りの主張立証(人証申請を含む)をされたい。なお、被告らが令和3年11月29日(月)までに提出すると述べた準備書面についても令和3年12月24日までに提出すれば足りる。」(同調書)となっていたのにもかかわらず、原審被告らは残りの主張立証また本件特約の有効性に関する主張立証を提出期限である令和3年12月24日になっても提出せず、結局、原審被告ら準備書面(3)等が原審原告宅に到着したのは、それから2週間経過した令和4年1月9日頃になってからであった。

そして、第5回期日(令和4年1月19日)にて、裁判官からの「被告らは、令和3年12月24日までとされていた主張立証の期限を徒過して、準備書面及び証拠を提出した合理的理由を述べられたい。」との求釈明に対して、原審被告ら代理人弁護士は、「事実関係を整理していたためである。」(第5回調書)と釈明している。

以上から、原審被告ら準備書面(3)等が後れて提出されたことについて合理的理由はないのであるから、時機に後れて提出されたことについて、原審被告らに少なくとも重過失は認められる。

(3) それについての審理によって訴訟の完結が遅延すること
訴訟の完結を遅延させるかどうかは、当該攻撃防御方法を却下した場合に予想される訴訟完結の時点と、それについて審理を行った場合の訴訟完結の時点とを比較して判断されるとされている。

 控訴人は、原審被告ら準備書面(3)等は、原審被告らの主張の全趣旨を変更するものではなく、従前の主張、立証を補充するに過ぎないものであるから、その提出は訴訟の完結を遅延させることにならないと主張するが、この点について反論する。

 裁判所が一方の当事者から追加の攻撃防御方法を認める場合には、反対当事者による反論やこれを裏付ける立証の機会を付与することによって、適正かつ公正な審理を確保する必要がある。

 本件では、裁判所から原審被告ら代理人弁護士に対して、令和3年11月17日に「裁判所が定めた提出期限を徒過したのは今回で2度目であり、今後、訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、時機に後れた攻撃防御方法として却下することがある。」との警告がされていることから、裁判所は時機に後れた攻撃防御方法としての却下をも視野に入れた訴訟指揮を行っていたのであり、第4回期日にて、次回期日を弁論終結予定としたうえで、(法律や裁判の知識に乏しい)原審原告が、原審被告らからの主張立証を十分に吟味しそれに対する反論やこれを裏付ける立証を行う時間を確保することも考慮に入れて、主張立証の提出期限が令和3年12月24日に定められたといえる。

 以上より、本件の事案にかんがみ、原審被告ら準備書面(3)等がその期限を2週間も超えて提出されたことは、訴訟の完結を遅延させるといえる。

 さらに、第5回期日にて、原審被告ら準備書面(3)等の提出が期限を徒過した理由について「事実関係を整理していたため」と、原審被告らも述べているとおり、原審被告ら準備書面(3)等は、具体的な事実認定を要する問題である。

 そうすると、時機に後れて提出された場合、原審原告に反論、反証の機会を与えない限り、適正かつ公平な判断を確保することができないものであり、訴訟の完結が遅延することになる。

 よって、原審被告ら準備書面(3)等は、訴訟の完結を遅延させることとなるとの要件を満たす。

以上から、原審被告ら準備書面(3)等は却下の要件を満たしているといえる。

なお、控訴人は、原審の裁判所和解案は、原状回復に関する特約の有効性のみを検討しており、各損傷部位の具体的な内容を考慮していない旨主張するが、先述のとおり、控訴人は第2回期日にて、原審被告ら準備書面(1)および乙2、乙3をもとに損傷部位の具体的な内容を司法委員立ち会いのもと口頭でも説明しているのであるから、その内容を考慮したうえでの和解案であるというのが自然である。

また、先述のとおり、原審被告ら準備書面(3)等については、控訴人は、裁判所和解案が提示される前のタイミングから、本件特約の有効性に関する主張立証および本件物件の損耗状況に関する追加の主張立証を提出する旨述べていたのであるから、原審被告ら準備書面(3)等は当該裁判所和解案を契機としている旨の控訴人の主張は妥当でない。

3  控訴人が引用する判例について

控訴人は、原審被告ら準備書面(3)等が「訴訟の完結を遅延させることとなる」ものではないとの主張において、2つの判例(控訴理由書21頁)を引用しているが、どのような場合に「訴訟の完結を遅延させることとなる」かは、当然のことながら、事案の類型、複雑性、困難性、特殊性等、様々な状況に応じて検討されることになると考える。

控訴人が引用している2つの判例のうちの1つ(東京地裁平成13年判決)は100億円を超える税金納付に関する事案であり、もう1つ(東京高裁平成20年判決)は、売買契約の目的物が土地に関する事案である。

それに対して、本件訴訟は、約40万円の敷金返還請求であり、敷金返還請求訴訟のなかでは一般的な類型と思われるもので、事案の複雑性、困難性や訴訟物の価格が上記2つの判例とは異なるため、前提が大きく異なる。

また、上記2つの判例は、対象の攻撃防御方法が法律構成に関する主張あるいは法的構成における誤りの訂正であったのに対して、本件の原審被告ら準備書面(3)等は具体的な事実認定を要する主張立証である。

さらに、時機に後れて提出となったのも、事案が複雑であったり、状況が変化したりしたわけではなく、要は、(主張立証を提出する機会は十分あったにもかかわらず)何度にもわたる控訴人代理人の懈怠、怠慢によるものである。

よって、控訴人は、原審被告ら準備書面(3)等が「訴訟の完結を遅延させることとなる」ものではないとの主張において、上記2つの判例を引用することは、極めて失当である。

4 なお、控訴人は、「裁判所において、令和4年1月19日に弁論を終結されたことを前提としても、原審被告ら準備書面(3)の内容を斟酌したうえで判決を言い渡すことは、何ら「訴訟の完結を遅延させることとなる」ものではなく、むしろ事実関係を補充し真実の解明に資するものである。」(控訴理由書24頁)と述べているが、具体的な事実認定を要する原審被告ら準備書面(3)の内容を採用し斟酌するには、先述のとおり、被控訴人に反論、反証するための時間・機会を与えて、適正かつ公平な判断を確保する必要があるのであるから、控訴人が提出期限を徒過した期間に相当する時間・機会を与えることで、結局、訴訟の完結が遅延することになるのであるから、控訴人の主張は失当であるといえる。

5 以上から、原審にて、民事訴訟法157条1項により、原審被告ら準備書面(3)等を時機に後れた攻撃防御方法として却下したことは正当であるから、原判決に審理不尽の違法はない。

(第2回に続く)