【第93回】控訴審準備書面1について(その1)

はじめに

簡易裁判所の判決について、相手方が不服ということで、控訴しました。控訴理由書が届きましたので、それに対する反論ということで控訴答弁書を送付しましたが、合わせて、控訴審準備書面(1)も作成し送付しました。

その内容について記載します。第1回です。

控訴審準備書面(1)の内容

控訴答弁書の内容は以下の通りです。

令和4年(■)第■■号 敷金返還等請求控訴事件
控訴人(一審被告) オーナ会社
被控訴人(一審原告) Hayato

控訴審準備書面(1)
令和4年■月■日
東京地方裁判所 民事第■部■係 御中
被控訴人 Hayato 印

第1 はじめに
 被控訴人は、控訴答弁書において、控訴人が提出した令和4年■月■日付控訴理由書の「第2・一・2」から「第2・一・5」までと「第2・二・2」および令和4年4月28日付報告書(乙8)(以下、「対象攻撃防御方法」という。)は時機に後れた攻撃防御方法であるとして、その却下の申立てを当審(控訴審)に対して行ったが、仮に、被控訴人によるその申立てが当審にて却下された(控訴人による対象攻撃防御方法の提出が時機に後れた攻撃防御方法として却下されなかった)場合に備え、本書面にて対象攻撃防御方法に対する認否、反論を行う。

 なお、控訴人が原審にて提出した乙5、乙6については、原審にて却下されたが、控訴人は当審において再度の証拠申請をしておらず、また原審での却下の決定に対して当審にその取消しを求めていないから、対象攻撃防御方法にて引用している乙5、乙6については、認否、反論の対象としない。

第2 控訴理由書「第2・一・2」(3頁)から「第2・一・5」(12頁)までに対する反論
 まずは、本件特約の成否に関する被控訴人の主張を記載したあとに、控訴理由書「第2 原判決の事実誤認について」の「一 「敷金から控除されるべき原状回復費用の額」について(特約の有効性)」に対して、その章立てに沿って認否、反論する。

1 本件特約の成否に関する被控訴人の主張

(1) 控訴人は通常損耗に関する本件特約は有効であると主張するが、本件特約について合意が成立しているということはできない。

(2) 最判平成17年12月16日(甲4の1)について
最判平成17年12月16日(以下「本件最判」という。)は、「賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。これを本件についてみると、本件契約における原状回復に関する約定を定めているのは本件契約書22条2項であるが、その内容は上記1(5)に記載のとおりであるというのであり、同項自体において通常損耗補修特約の内容が具体的に明記されているということはできない。また、同項において引用されている本件負担区分表についても、その内容は上記1(6)に記載のとおりであるというのであり、要補修状況を記載した「基準になる状況」欄の文言自体からは、通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえない。したがって、本件契約書には、通常損耗補修特約の成立が認められるために必要なその内容を具体的に明記した条項はないといわざるを得ない。被上告人は、本件契約を締結する前に、本件共同住宅の入居説明会を行っているが、その際の原状回復に関する説明内容は上記1(3)に記載のとおりであったというのであるから、上記説明会においても、通常損耗補修特約の内容を明らかにする説明はなかったといわざるを得ない。そうすると、上告人は、本件契約を締結するに当たり、通常損耗補修特約を認識し、これを合意の内容としたものということはできないから、本件契約において通常損耗補修特約の合意が成立しているということはできないというべきである。」と判示する。

 本件最判については、「本判決の事案における負担区分表の記載や説明会での説明に照らして、なお合意が否定されていることから、「明確な合意」が認定されるための具体的な明記、口頭説明・認識等は厳格に判断されることになる」(甲4の2)、「本件で問題となった特約は、実務上見られる類型の中でも詳細な部類に属するものであるが、通常損耗補修の合意が認定されなかったことからすると、負担内容の明確性、具体性についての認定は、厳格にすべきことが示されたものといえよう。」(甲6・68頁)、また「本件契約書の原状回復条項で引用されている本件負担区分表に記載された補修を要する状況には、例えば「汚損(手垢の汚れ、たばこの煤けなど生活することによる変色を含む)」「生活することによる変色、汚損破損と認められるもの」「汚損とはよごれていること、または、よごしてきずつけること。」等の記載があるが、このような記載があっても通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえないとして極めて厳格に解している。」(判タ1245号53頁(甲14・53頁))とのことから、通常損耗について賃借人にその補修費用を負担させる旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)の成否を検討するにあたっては賃借人に課される負担内容の明確性、具体性について厳格に判断すべきことが示されたといえる。

 さらに、「特約の合意が認められるためには、賃借人が通常損耗について補修費用を負担すること及びその対象となる通常損耗の範囲について明確に認識することはもとより、その負担する金額についても認識できなければ合意が成立したとはいえないと解される。」(甲14・53頁)とのことから、通常損耗補修特約によって賃借人が負担することになる金額についても認識できるものでなければ合意が成立したとはいえない。

(3) 本件賃貸借契約における本件特約の記載内容
本件賃貸借契約において、契約書本体(甲1の1)にて原状回復に関する約定を定めているのは、以下のとおり、11条1項と同条3項である(甲は賃貸人である控訴人を、乙、丙はそれぞれ賃借人である訴外■■、賃借人兼入居者である被控訴人を示す。)。

第11条 乙及び丙は、本契約が終了する日までに(第9条の規定に基づき本契約が解除された場合)あっては、直ちに、本物件を明け渡さなければならない。この場合において乙及び丙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き、本物件を原状回復しなければならない。

(中略)

3 甲、乙及び丙は、第1項後段の規定に基づき乙及び丙が行う原状回復の内容・方法及び費用の負担については、甲の定める「退去時の住宅補修査定基準」によるものとする。

11条1項後段は、通常損耗について賃借人はその補修費用を負担せず、特別損耗があれば賃借人はその補修費用を負担する旨(費用負担の一般原則)を定めている。また、同条3項の「第1項後段」とは11条1項の「この場合において乙及び丙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き、本物件を原状回復しなければならない。」のことを指すから、同条3項は、賃貸人および賃借人は費用負担の一般原則に基づき「退去時の住宅補修査定基準」(以下「本件補修査定基準」という。)により原状回復の費用負担を行う旨を定めている。

また、特約条項(契約書本体15条)にも通常損耗補修特約に関する記載はないことから、契約書本体には、通常損耗について賃借人にその補修費用を負担させる旨の定めがないどころか、「通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き」と明記していることから、むしろ、通常損耗について賃借人にその補修費用を負担させる旨を否定している。

それに対して、賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書(甲1の2)(以下「本件説明書」という。)では、以下のとおり、通常損耗補修特約に関する記載があり、原判決においても「証拠(甲1の2)によれば、本件賃貸借契約には、通常の使用に伴う損耗(通常損耗)であっても、室内全体のハウスクリーニング費用は、賃借人の負担とすること、また、退去時における住宅の損耗等のうち生活することによる汚損についての復旧費用は、2分の1を賃借人の負担とする旨の特約があることが認められる」と判示している。

【2】当該契約における賃借人の負担内容について

本契約では、特約として以下のことを賃借人の負担で行うことにしています。

[1]室内全体のハウスクリーニング(自然損耗・通常使用による部分も含む)
[2]退去時における住宅の損耗等の復旧について
(1)賃借人の責めに帰すべき事由による汚損又は破損について、その復旧費用は賃借人の負担とすること。
(中略)
(3)生活することによる汚損について、その復旧費用は賃借人と賃貸人とで2分の1ずつ負担すること。

 上記特約のうち、「賃借人の責めに帰すべき事由による汚損又は破損について、その復旧費用は賃借人の負担とすること。」(本件特約イ)については、控訴人は「賃借人の責めに帰すべき事由(故意又は過失)による汚損、破損(特別損害)について復旧費用を賃借人の負担とするものであり、民法の一般原則を注意的に定めたものである」(控訴理由書4頁)と主張しているのであるから、通常損耗補修特約に関する記載は、「室内全体のハウスクリーニング(自然損耗・通常使用による部分も含む)(を賃借人の負担とすること)」(本件特約ア)、「生活することによる汚損について、その復旧費用は賃借人と賃貸人とで2分の1ずつ負担すること」(本件特約ウ)と考えられる。

(4) 本件特約について合意が成立していないこと
上記(2)、(3)をもとに、本件特約の成否について検討する。

 上記(3)のとおり、本件特約(本件特約ア、ウ)の記載内容は、「室内全体のハウスクリーニング(自然損耗・通常使用による部分も含む)」、「生活することによる汚損について、その復旧費用は賃借人と賃貸人とで2分の1ずつ負担すること」であり、通常損耗補修特約の内容が具体的に明記されているということはできない。さらに、上記(2)に記載の「賃借人に課される負担内容の明確性、具体性について厳格に判断すべき」、「通常損耗補修特約によって賃借人が負担することになる金額についても認識できるものでなければ合意が成立したとはいえない」という指針を判断の拠り所とすると、より一層のこと、具体的に明記されているということはできない。

また、上記に加えて、「(仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、)賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたもの」という事実もない。

したがって、本件賃貸借契約において通常損耗補修特約の合意が成立しているということはできないというべきであるから、通常損耗に関する本件特約について無効と判断した原判決は正当である。

2 「2 本件特約の内容」について

(1) 「(1)」について
契約書本体と本件説明書、本件補修査定基準が袋とじにされていることは認めるが、賃借人の契印は否認する。賃借人である被控訴人は契印していない。

(2) 「(2)」について
原状回復に関する規定は、契約書本体11条1項だけでなく、同条3項にも記載されている。
本件説明書が東京都住宅政策本部のひな形等に従ったものであるということは不知。

(3) 「(3)」について
本件特約イの解釈について、民法の一般原則を注意的に定めたものというのは不知だが、控訴人がそのように主張するのであれば、被控訴人は積極的に争わない。それ以外については、概ね認める。
なお、「上記【1】(1)②参照」について、正しくは「上記【1】1②参照」と思われるため、控訴人に釈明を求める。

3 「3 本件特約が有効であること」について
(1) 「(1)」について
否認ないし争う。本件特約は合意が成立していない。
(2) 「(2)」について
ここでは単に裁判例を記載しているだけなので、認否、反論の対象はない。
(3) 「(3)賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されていること」について
ア 「ア」について
本件特約イについて、民法の一般原則を注意的に定めたものというのは不知だが、控訴人がそのように主張するのであれば、被控訴人は積極的に争わない。
本件特約ア及びウについては、否認ないし争う。本件特約は合意が成立していない。
イ 「イ」について
否認ないし争う。
上記1(3)に記載のとおり、契約書本体11条3項は、賃貸人および賃借人は費用負担の一般原則に基づき本件補修査定基準により原状回復の費用負担を行う旨を定めているのであるから、本件補修査定基準は、費用負担の一般原則、つまり通常損耗について賃借人は補修費用を負担しないという規定に基づいているといえる。
また、通常損耗補修特約に関して記載のある本件説明書には、本件補修査定基準を引用するような文言もない。
したがって、本件補修査定基準には賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗についての規定はないといえる。

さらに付言すると、本件補修査定基準自体をみても、通常損耗の補修費用を賃借人が負担することを明確に認識できないし、またその通常損耗の範囲が一義的に明白となるような記載もない(し、本件補修査定基準自体に賃借人の署名、捺印もない)。

さらに、以下については控訴人に釈明を求めるが、このような求釈明を要すること自体、本件補修査定基準の記載が不明瞭であることを示しているといえる。

「イ)⑨リビング 網戸張替」について、「退去時の住宅補修査定基準「襖・障子」「引出その他金物」に該当」との記載があるが、網戸は「襖・障子」ではなく、「銅製・アルミ建具及び金物」に該当ではないか。

「エ)⑭玄関 靴箱ダイノック張替」について、「退去時の住宅補修査定基準「壁・天井」「板張り(化粧ベニア、ボード類等)」に該当」との記載があるが、玄関靴箱は「壁・天井」ではなく、「備品その他」に該当ではないか。

「オ)⑮洋室8.1帖 入口枠 ダイノック張替 材工共」について、「退去時の住宅補修査定基準「壁・天井」「塗装」に該当」との記載があるが、居室の入口枠は「壁・天井」ではなく、「木製建具・金物」に該当ではないか。

なお、「カ)⑯ルームクリーニング」については、原審原告第1準備書面でも述べたとおり、以下の点からも、本件特約アについて合意が成立しているとはいえない。

ア)そもそも賃借人に費用負担を課することが明確に認識できない。「ハウスクリーニング」という文言にとどまっており、賃借人が費用を負担することが明確に認識できないし、賃借人に負担を課する条件も明白でない。「専門業者によるハウスクリーニング」あるいは「汚損の有無や汚損の程度によらない」といった記載やクリーニングの具体的な作業内容の記載があれば、賃借人がクリーニング費用を負担することを認識できる余地はあるが、本件特約の記載文言では、賃借人の費用負担を明確に認識できるとはいえない。

イ)本件特約ウと競合している。賃借人が負担する通常損耗の範囲が本件説明書に具体的に明記されていないがゆえに、「生活することによる汚損」をクリーニングにて補修する場合に、本件特約アと本件特約ウのどちらが適用されるのか一義的に明白でない。

ウ)そもそも退去時におけるハウスクリーニングとの記載がない。本件特約イ、ウについては、「退去時における住宅の損耗等の復旧について」と記載されているが、それに対してクリーニング特約は、退去時との記載はない。控訴人とやり取りした書面に記載されている通り、入居時から汚損があったのであるから、そのクリーニングは入居者の負担、とも読み取れることから、退去時における特約であることも一義的に明白ではない。

ウ「ウ」について
否認ないし争う。
控訴人が例示する東京地裁平成23年6月30日判決は事業用賃貸借(図書出版・販売業)であるのに対して、本件賃貸借契約は居住用である(契約書本体3条(使用目的))ため、通常損耗補修特約の成否を判断する際の前提が大きく異なる。
東京高裁平成12年12月27日判決についての判例タイムズの解説(判タ1095号176頁)では、「オフィスビルの賃貸借における原状回復義務について、本判決は、一般に、賃貸物件のクロスや床板、照明器具などを取り替え、場合によっては天井を塗り替えることまでの原状回復義務を課する旨の特約が付される場合が多いと認定し、賃借人の保護を必要とする民間賃貸住宅とは異なり、市場性原理と経済合理性の支配するオフィスビルの賃貸借では、このように、賃借人の使用方法によって額が大幅に異なり得る原状回復費用を、あらかじめ賃料に含めて徴収する方法を採らずに、賃借人が退去する際に賃借人に負担させる旨の特約を定めることは、経済的にも合理性があるとしている。」とのことであるから、事業用賃貸借の地裁判決を居住用の本件賃貸借契約に当てはめて本件特約は有効であるとする控訴人の主張は、失当である。

また、もっぱら賃借人側の事業内容によって使用方法が大きく異なりうる(そのため、賃貸借契約締結時の原状に復する義務を課する旨の特約が付されることが一般的な)事業用賃貸借に対して、居住用賃貸借の場合は、賃借人によって通常の使用方法が大きく異なることはないのであるから、(少なくとも住宅賃貸を事業としている賃貸人は)通常の使用による住宅の損耗(通常損耗)による価値の減少(減価)について一定の予測は可能だといえるのであるから、通常損耗に関して、入居時点において退去時の施工方法の特定はできない旨の控訴人の主張は妥当ではない。

(4) 「本件特約が有効であること2(賃貸人側による説明によって賃借人が特約内容を明確に認識したうえで合意されたものであること)」について
否認ないし争う。
控訴人は、被控訴人が特約内容を明確に認識したうえで合意している旨主張するが、被控訴人は特約内容を明確に認識していないし、明確に合意もしていない。
控訴人は、本件賃貸借契約を締結するにあたって、訴外■■氏から被控訴人に対して、本件説明書および本件補修査定基準に基づき具体的かつ詳細な説明が直接行われた旨主張するが、その主張は事実と異なる。

本件賃貸借契約の締結は、被控訴人が原審から主張しているとおり、書面の郵送により実施されたのであり、本件特約に関して控訴人側からの口頭による説明を被控訴人は受けていない。ましてや、本件説明書だけではなく、本件補修査定基準についてもそれに基づいて具体的かつ詳細な説明が直接行われた、という事実はない。

 控訴人は、被控訴人に対して直接説明したのは訴外■■氏であり同氏は宅地建物取引主任者であると主張しているが、本件説明書1頁の説明者の箇所に同氏の氏名が印字されており、また重要事項説明書1頁(甲1の3)の取引主任者氏名の箇所に同氏の氏名が印字されているので、そのような主張しているだけであって、同氏が実際に被控訴人に対して直接説明を行ったのか、また、仮に行っているのであれば、どの程度の時間をかけてどの程度具体的かつ詳細な説明を行ったかの事実確認を、控訴人はしていないと思われる。さらに、重要事項説明書1頁には取引主任者として「■■■■」氏のゴム印および捺印があることからも、訴外■■氏が本件賃貸借契約における仲介会社側の担当者であったのかも疑わしい。

 また、本件説明書に被控訴人自身が訴外■■の社印の捺印をしたことは否認し、被控訴人が「■■■■」と署名した後に二重線で抹消し訴外■■に書き直したことは認めるが、これをもってして、本件説明書だけでなく本件補修査定基準についてもそれに基づいて具体的かつ詳細な説明が行われ、その説明により被控訴人が補修費用を負担することになるその通常損耗の範囲について明確に認識し、そしてそれによる義務負担を被控訴人が明確に意思表示した、ということはできない。

 したがって、本件特約について合意は成立していないといえる。

 なお、12頁の「本件特約③」との記載については、正しくは「本件特約ウ」と思われるため、控訴人に釈明を求める。

(5) 「(5)」について
否認ないし争う。
本件賃貸借契約は、被控訴人個人と訴外■■の連名契約である。(訴外■■ではなく)被控訴人が敷金を控訴人に交付し、被控訴人が転貸借について承諾し、被控訴人が解約の申し入れを行い、被控訴人の口座に対して敷金の一部の返金を受けた(原判決・第2・1(1)から(4))。賃料についても、訴外■■の支払いではなく、被控訴人の口座からの引き落としにより支払いを行っていた。

また、被控訴人は、本件賃貸借契約において、原状回復義務を負う(契約書本体11条)とともに、敷金返還請求権を有する(同6条)のであるから、自らの金員を敷金として控訴人に預け入れた当事者として、本訴訟を提起しその返還を求めているのである。

次に、本件最判は、通常損耗補修特約の成否を検討するにあたって、消費者保護法を適用していない。本件最判については、「「建物の賃貸借においては」として特にその対象を限定していないことから、事例判決ではあるが、居住用の家屋賃借人にとどまらず、広く建物賃借人保護の見地から、通常損耗についての原状回復特約の合意成立に関しては同様の基準で認定されるべきことを示したものと評価できるであろう。」(甲6・68頁)とのことから、消費者保護の見地からではなく建物賃借人保護の見地から、通常損耗補修特約の合意成立基準を示しているのである。

原判決においても、本件最判の基準に従って本件特約の成否を判断しているのであるから、消費者保護法を前提にはしていない。

4 「5」について
否認ないし争う。本件特約は合意が成立していない。

次回へ続く、、、)