【第96回】控訴審準備書面(2)を提出

はじめに

控訴審第1回期日にて、私と相手方の双方に宿題が与えられ、期日続行となりました。

私の宿題は、

(原審での相手方攻撃防御方法の提出が、原審では時機に後れたものとして却下されたが、当審ではその却下は取り消されたので、)追加の主張立証をすること

でしたので、その内容について記載します。

控訴審準備書面(2)の内容

控訴審準備書面(2)の内容は以下の通りです。

令和4年(■)第■■■号 敷金返還等請求控訴事件
控訴人 オーナー会社
被控訴人 Hayato

控訴審準備書面(2)

令和4年■月■日
東京地方裁判所 民事第■室■係 御中
被控訴人 Hayato  印

第1 はじめに

 令和4年■月■日付控訴人準備書面(1)(以下「控訴人準備書面(1)」という)に対して反論する。次に、原審で却下されたが当審にてその却下が取消された乙5、乙6について被控訴人の主張を述べる。
なお、本書面における略語については、本書面で定義するものの他は、従前の例による。

第2 控訴人準備書面(1)に対する反論

 本件特約は合意が成立していないこと、また、被控訴人が負担すべき原状回復費用はないことについての被控訴人の主張は、先述の準備書面や訴状のとおりではあるが、念のため反論する。
1 「1 本件特約が有効であること」に対する反論
(1) 控訴人の主張は、本件賃貸借契約に関する以下の点について前提事実を誤っている。
ア 本件建物の使用目的
控訴人は、本件賃貸借契約は事業用の賃貸借契約であるかのように主張しており、事業用賃貸借契約に関する過去の裁判例(東京地裁平成23年6月30日判決)(以下「事業用東京地判」という)を用いて本件特約は有効との主張をするが、本件賃貸借契約は事業用ではなく居住用である。
契約書本体3条(甲1の1)および重要事項説明書2頁(甲1の3)に本件建物の使用目的は居住用と記されている。
イ 本件建物の賃借人
控訴人は、本件賃貸借契約の賃借人は訴外■■のみの法人契約であるかのように主張するが、契約書本体(甲1の1)から明らかなとおり、被控訴人個人も賃借人とする連名契約である。

以上のとおり、控訴人は、前提事実を誤っているのであるから、その主張は失当である。

(2) また、控訴人は、本件最判の「少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当」との通常損耗補修特約の合意成立基準(以下「特約合意基準」という)は、消費者保護の要請に基づく旨の主張をする。
しかしながら、特約合意基準は、建物賃貸借一般に適用されるものと考えられており、賃借人が消費者である場合に限定されない。
このことは、賃借人が事業者(図書出版及び販売等の業務を目的とする株式会社)である事業用東京地判において、特約合意基準を引用していることからも明らかである。

(3) 事業用東京地判について
控訴人は、控訴理由書や控訴人準備書面(1)のなかで、本件特約が有効であることの理由として、事業用東京地判を積極的に引用しているが、前述のとおり、通常損耗補修特約の成否に大きく影響を及ぼす前提事実が本件賃貸借契約とは異なる。
さらに以下の事情が異なる点についても念のため付言する。
ア 事業用東京地判においては、通常損耗補修特約の内容が賃貸借契約書の条項および重要事項説明書自体に記載されている。  それに対して、本件賃貸借契約においては、被控訴人控訴審準備書面(1)で述べたとおり、契約書本体には通常損耗補修特約に関する記載がないどころか、むしろそれを否定しているし、重要事項説明書にも記載はない。
イ 事業用東京地判においては、通常損耗補修特約の内容が記載された賃貸借契約書および重要事項説明書について、賃借人は、不動産仲介業者と読み合わせを行い、通常損耗補修特約の内容について説明を受けた上で記名押印している。
それに対して本件賃貸借契約においては、被控訴人控訴審準備書面(1)で述べたとおり、本件特約に関して控訴人側からの口頭による説明を被控訴人は受けていない。ましてや、(本件説明書だけではなく、)本件補修査定基準についてもそれに基づき具体的かつ詳細な説明が直接行われた(控訴理由書11頁)、という事実はない。また、被控訴人は、本件補修査定基準自体に対して署名捺印もしていないし(乙1)、袋とじになった契約書に契印もしていない(乙5最終頁)。
ウ 事業用東京地判において、賃借人は、賃貸借開始から2ヶ月分の賃料免除を請求するなど賃貸借契約に精通している会社であることが窺える(実際に2ヶ月分の賃料免除となった。)。
(4) 以上より、本件特約は有効との控訴人の反論には理由がない。

2 「2 本件建物の損傷部位は特別損耗に該当すること」に対する反論
(1) 本件特約イについて、控訴人は、控訴理由書4頁では「民法の一般原則を注意的に定めたもの」としていたが、控訴人準備書面(1)では、費用負担の一般原則とは異なる特約かのような主張をしているため、控訴人に釈明を求める(「第4 求釈明」に記載)。
(2) 被控訴人の負担軽減を図っている旨の控訴人の主張に対する反論は、被控訴人控訴審準備書面(1)15頁以降のとおりである。
(3) 控訴人は、原審被告らの一人である訴外管理会社(以下「管理会社」という)が作成した本件見積書は客観的かつ合理的であるから、被控訴人はそれに従い負担すべきである旨、主張する。
しかしながら、管理会社は控訴人が供給する建物を取り扱う関連会社であり、控訴人の■■事業部長である訴外■■氏は管理会社の取締役であること、また、管理会社は本件賃貸借契約における賃貸人代理つまり控訴人の代理なのであるから、管理会社は客観的な立場にあるとはいえない。
さらに、(客観的立場で合理的判断を行う公的機関の)東京簡易裁判所(以下「東京簡裁」という)において、(豊富な経験や専門知識を有する)司法委員立ち会いのもと、控訴人側から、原審被告ら準備書面の内容説明および乙2、乙3の図面・写真による本件建物の損耗状況の説明がなされたうえで、被控訴人が負担すべき費用はないと認定されたのである。
原状回復をめぐる敷金返還請求訴訟は、東京簡裁において数多く取り扱っている一般的な類型であり、本件訴訟も(少なくとも特別損耗に該当するか否かの点に関する争いは)その例外ではないのあるから、本件訴訟における東京簡裁の判断に対して、控訴人がそれは相当でないと主張するのであれば、原審である東京簡裁での主張立証と同様の主張立証を当審でも繰り返すのではなく、東京簡裁の費用負担額に関する判断が相当でない理由を明らかにされたい。

第3 乙5、乙6について

1 乙5について
乙5の最終頁以外は、控訴人が保持する契約書本体、あるいは乙1、乙4と同一の証拠であるから、最終頁について主張する。乙5の最終頁から明らかなとおり、被控訴人は契約書に契印していない。

2 乙6について
乙6の写真は、47番、48番を除き、乙2、乙3と同一(乙2、乙3の写真を拡大しているにすぎない。)であるから、被控訴人の主張は、先述の被控訴人控訴審準備書面(1)のとおりである。
また、47番、48番に対しても、同書面17頁のとおりである。

第4 求釈明

 控訴人に対して、以下の事項を明らかにするよう求める。
1 控訴人準備書面(1)3頁にて、控訴人は「本件特約イによれば、退去時に特別損耗が認められる場合には、その復旧費用は全額賃借人の負担となる」と主張している。
そこで、退去時に特別損耗が認められる場合には、その復旧費用のうち、経年変化や通常損耗分を賃借人に負担させるのか、負担させる場合はどの程度負担させるのか、控訴人の主張が不明瞭であるので、明らかにされたい。
参考までに、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」における「判例、標準契約書等の考え方」の図を添付する。

2 本件特約ウの「生活することによる汚損」とは、通常の生活をすることで生じる損耗(通常損耗)だけでなく、経年変化(時間の経過とともに生じる品質・性能・色あせなどの変化・劣化)も含むのか、控訴人の主張が不明瞭であるので、明らかにされたい。

以上