はじめに
敷金返還請求事件の控訴審において、先日、裁判所から判決文が送付されてきました。
今回はその内容について記載しようと思います。控訴人が賃貸人で、被控訴人が賃借人です。
裁判所の判決文(6)
ア 被控訴人は、控訴人が主張する損傷等は全て通常損耗に該当すると主張するが、上記認定判断のとおり採用できない。
イ 被控訴人は、控訴人が主張する損傷等の原状回復費用の額は、控訴人の関連会社である管理会社が算定しており、信用性が乏しいと主張するが、上記のとおり、管理会社は、本件居室内に立ち入って実際に損傷状況を確認した上で、業者としての知見に基づき、本件見積書を作成したと認められること(前提事実(5)及び甲2の3)、その内容に明らかに不合理ないし不適当な内容があると認めるべき証拠はないことにも照らせば、被控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 被控訴人は、本件一覧表の番号1ないし8について、本件見積書の内容が、耐用年数に応じた残存価値の程度を考慮しておらず、不相当である旨を主張するが、本件一覧表の番号1ないし8の損傷はいずれも傷、破れやへこみといった損傷であって特別損耗に該当するものである。このような損傷がなければ、クロスのクリーニング等による原状回復でも足りるものと考えられるが(そして、クリーニング費用については控訴人が負担すべきであることは前述のとおりである。)、上記のような損傷についての原状回復には、本件見積書記載の工事が必要であると認められることは前記認定判断のとおりである。また、被控訴人が主張する耐用年数は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)に基づくものと解されるが、同省令は、税務処理の観点から、経年で価値が減少していく資産の取得費用を必要経費として配分するために耐用年数を定めたものにすぎず、耐用年数を過ぎたからといって使用価値がなくなるものではない。確かに、クロス等が新品になることによって控訴人が利益を受ける部分はあるが、上記のとおり、原状回復費用の半額を控訴人が負担することからすれば、控訴人が原状回復工事によって得る利益についても被控訴人に負担させているということはできない。したがって、被控訴人の主張は採用できない。
エ 被控訴人は、本件一覧表の番号10ないし15の損傷について、本件見積書が想定する工事が次の入居者を確保するための工事費用である旨や、本件一覧表の番号14及び15についての工事が必要かつ相当な工事の費用ではないなどと主張するが、上記のとおり、本件一覧表の番号10ないし15はいずれも特別損耗又は被控訴人による現状変更であり、ウに述べたところと同様、その原状回復のために上記(10)ないし(15)で述べた工事が必要と考えられる。原状回復費用についても上記(10)ないし(15)で述べたとおりであり、床板等が新品になることによって控訴人が得る利益を考慮しても、原状回復工事の半額を被控訴人が負担することが不当であるといえないことも、ウに述べたところと同様である。また、本件一覧表の番号14、15番のダイノック張替えについては、被控訴人による現状変更等がなければ、そもそも不要な工事であることからすれば、被控訴人がその全額を負担すべきであるといえる。したがって、被控訴人の上記主張は採用できない。
オ その他の被控訴人の主張であって、上記(1)ないし(15)の認定と異なる内容についてはすべて採用できない。
(17)上記(1)ないし(16)までで判示したところによれば、被控訴人が負担すべき原状回復費用の負担額は、別紙一覧表の「裁判所認定の被控訴人負担額」欄記載のとおりであり、その合計は■■円となる。そうすると、本件敷金契約に係る敷金から控除されるべき額は、上記に消費税相当額(■■円)を加えた合計■■円と認められる。したがって、控訴人が被控訴人に返還すべき敷金の額は、未返還分(■■円)から■■円を控除した■■円となる。
4 結論
以上によれば、被控訴人の請求は、主文1項(1)の限度で理由があるから、当該限度において認容するとともに、その余の部分を棄却すべきものであり、これと異なる原判決は失当である。
よって、原判決を上記のとおり変更することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第■部