【第94回】控訴審準備書面1について(その2)

はじめに

簡易裁判所の判決について、相手方が不服ということで、控訴しました。控訴理由書が届きましたので、それに対する反論ということで控訴答弁書を送付しましたが、合わせて、控訴審準備書面(1)も作成し送付しました。

その内容について記載します。第2回です。

控訴審準備書面(1)の内容

控訴答弁書の内容は以下の通りです。前回からの続きです。

前回からの続き、、、)

第3 控訴理由書「第2・二・2」に対する反論
 控訴理由書「第2 原判決の事実誤認について」の「二 「敷金から控除されるべき原状回復費用の額」について(特別損耗)」の「2 本件建物における各損傷部位について」に対して認否、反論する。

1 上記第2のとおり、通常損耗補修特約については合意が成立していない。したがって、被控訴人は特別損耗についてのみ原状回復費用を負担することになるが、賃借人である被控訴人が負担すべき原状回復費用はないと判断した原判決は正当である。

2 「2 本件建物における各損傷部位について」について

(1) 「(1)本件における損傷部位の取扱(特約の一部免除)」について
否認ないし争う。
控訴人は、「本件特約イによれば、退去時に特別損耗が認められる場合には、その復旧費用は全額賃借人の負担となる。」と主張するが、本件特約イは民法の一般原則を定めたものであるから、賃借人が負担すべき金額は、補修費用全額ではなく、補修費用全額から通常損耗(自然損耗・経年劣化を含む)による価値減少分を除いた金額となる。

 また、特別損耗の部分については、原則として50%(2分の1)のみを賃借人負担とし被控訴人の負担軽減を図っている旨の控訴人の主張に反論する。
被控訴人は控訴人に対して負担軽減を要望したことはないし、被控訴人の負担軽減を考慮して2分の1のみ賃借人負担としているのであれば、控訴人は本件見積書(甲2の3)にその旨を素直に記載すればいいところ、控訴人は、本件見積書の備考欄に「賃貸借住宅紛争防止条例に基づく説明書による」と記載のうえ、本件特約ウの箇所に黄色マーカーを引いた本件説明書(甲2の3・3頁)を添えて被控訴人に本件見積書を送付しているのであるから、控訴人は本件特約ウに基づいて賃借人負担としたと考えるのが自然である。

したがって、(本件特約ウは通常損耗に関する特約なのであるから、)「(B)特別損耗の部分についても原則として50%パーセントのみを賃借人負担とすること」とした項目について控訴人は、特別損耗なのではなく、通常損耗との認識であったいえる。
また、控訴人の、「(A)自然損耗と判断した箇所の復旧費用については賃貸人負担とする(賃借人には請求しない)こととし」、被控訴人の負担軽減を図っている旨の主張についても反論する。

そもそも賃借人が費用負担することになる通常損耗の範囲が一義的に明白でないのであるから、被控訴人の負担軽減を図っているとの控訴人の主張は、本件特約についての控訴人都合による解釈を前提とした一方的な見解を述べているにすぎない。

(以上から、被控訴人の負担軽減を図っている旨の控訴人の主張は、控訴人による印象操作ともいえると、被控訴人は考えている。)

(2) 「(2)具体的な損傷部位及び内容」について

ア 「①玄関・廊下 壁クロス張替」、「②洋室8.1帖 壁クロス張替」、「③洋室8.1帖 クローゼット壁・天井クロス張替」、「④洋室6.4帖 壁クロス張替」、「⑤リビング 壁クロス張替」、「⑥キッチン壁 クロス張替」、「⑦洗面所壁 クロス張替」、「⑧トイレ壁 クロス張替」について
否認ないし争う。

入居当時から一定の損耗は存在していたし、入居期間中に被控訴人による特別損耗があったとしても、本件建物の賃貸期間は13年であり、クロスの耐用年数である6年を大きく超えているため、本件建物の明渡しの時点においてクロスの残存価値はなく、被控訴人が負担すべき費用はない。

イ 「⑨リビング 網戸張替」について
否認ないし争う。
被控訴人による入居期間中の特別損耗はないため、被控訴人が負担すべき費用はない。

 控訴人のリビングに網戸が2つ設置されている旨(1つは網戸としての機能をほとんど失った状態であり、もう一つは使用することが不可能な状態)の主張は事実に反しており、リビングに網戸は1つしかない。

ウ 「⑩玄関・廊下 床上張り 材工共」、「⑪リビング 床上張り 材工共」、「⑫洋室8.1帖 床上張り 材工共」、「⑬洋室6.4帖 床上張り 材工共」について
否認ないし争う。
床フローリングについては、大阪高裁平成16年7月30日判決(敷金返還請求控訴事件)において「日常の使用により床にキズが入るのはやむを得ない面があり」と判示しており、入居当時から一定の損耗は存在し、また、被控訴人の居住年数は13年間と長期間であったのであるから、細かいキズなど、それ相応の通常損耗はあってしかるべきである。
控訴人の写真(乙2)では損耗個所を拡大しているため、傷の大きさは明らかではない。仮に、特別損耗として補修が必要であったとしても、塗装や部分補修により補修可能であるにもかかわらず、全ての床(全居室、キッチン、玄関・廊下)について床一面に対して床上張りを行っている。床上張りとは床部分に面材を張ることであり、これを全ての床に施すことは、特別損耗の補修として必要かつ合理的な工事とはいえず、控訴人が次の入居者確保のために行う工事であるから、被控訴人が負担すべき費用とはいえない。

エ 「⑭玄関 靴箱ダイノック張替」について
取手およびアルミ鏡をシールで貼ったことは認めるが、シールは剥がせるものであるから、控訴人が行ったダイノックシート(化粧シート)張りは、必要かつ合理的な工事とはいえず、控訴人が次の入居者確保のために行う工事であるから、被控訴人が負担すべき費用とはいえない。

オ 「⑮洋室8.1帖 入口枠 ダイノック張替 材工共」について
否認ないし争う。
控訴人が行ったダイノックシート(化粧シート)張りが必要となるような特別損耗はない。「意図的に鈍器で叩いたか、重量のある物体を再三にわたり打ち付ける等しなければ生じない。」と控訴人は主張するが、そのような事実はない。仮に、特別損耗として補修が必要であったとしても、塗装や部分補修により補修可能であるにもかかわらず、控訴人はダイノック張替を行っており、ダイノックシート(化粧シート)張りは、必要かつ合理的な工事とはいえず、控訴人が次の入居者確保のために行う工事であるから、被控訴人が負担すべき費用とはいえない。

カ 「ルームクリーニング」について
否認ないし争う。
控訴人は、本件特約アに基づき賃借人負担となる旨主張するが、本件特約は合意が成立していないのであるから、被控訴人が負担すべき費用とはいえない。

(3) 「(3)本件見積書における復旧費用の額が相当であること」について
否認ないし争う。
本件見積書の作成を(原審被告らの一人である)管理会社が行ったことについては争わないが、賃借人である被控訴人の負担額が適正であった旨の控訴人の主張は否認する。

 管理会社のホームページ(甲15)によると、管理会社は、控訴人であるオーナー会社の関連会社であり、主として控訴人が供給・所有するマンションの管理業務を業としている。また、訴訟提起時に被控訴人が裁判所に提出した登記簿謄本によると、訴訟提起前に被控訴人がやり取りしていた控訴人の(不動産アセット事業部長である)■■氏(甲3の6)は、管理会社の取締役でもあるため、両社には強いつながりがあり、控訴人は管理会社に対して強い影響力を持っているといえる。したがって、控訴人の関連会社である管理会社は、強いつながりのある控訴人と利害関係が一致しているが故に、どうしても控訴人に有利(賃借人である被控訴人に不利)となるような見積りを作成してしまう立場にあると、被控訴人は考える。

 事実、本件見積書においても、前述のとおり、賃借人の負担額は適正ではなかったのである。また、管理会社が被控訴人の負担を軽減した旨の被控訴人の主張は、前述のとおり、事実とはいえない(そもそも管理会社は賃貸人ではないのであるから、被控訴人の負担額を軽減できる立場ではない。)。

 さらに付言すると、管理会社は、本件建物の明渡し日だけでなく、それから1ヶ月以上も経過した令和3年2月12日にも本件建物の状況写真を撮影し、原審にて証拠として提出している(乙2、乙3)。どの写真が2月12日に撮影したのかを控訴人および管理会社は明らかにしていないが、明渡し日から1か月以上経過しており、かつ被控訴人と、控訴人および管理会社と間で原状回復費用をめぐりトラブルとなっている状況であったのであるから、写真で示された損耗が、被控訴人が入居期間中に与えた損耗なのか定かではない。この点についても、原状回復費用について賃借人負担額を見積るにあたり、管理会社の対応は適切ではなかったといえる。

 また、控訴人は、控訴理由書の「具体的な損傷部位及び内容」(第2・二・2・(2))と同一内容を記載した報告書(乙8)を、管理会社(の訴外■■氏)を作成者として当審に提出しており、控訴人としては、それは専門家である管理会社が作成したものであるからその内容は適正である旨主張したいものと考えられる。

 しかしながら、前述のとおり、管理会社は原審被告らの一人であり、また控訴人と強いつながりを持つ関連会社であることなどから、中立・適正に賃借人負担額を見積る立場とはいえないし、損耗状況についても事実を正しく報告したものとはいえない。

 なお、「また上記第3・1記載のとおり」との記載については、正しくは「また上記第2・1記載のとおり」と思われるため、控訴人に釈明を求める。

3 以上より、賃借人である被控訴人が負担すべき原状回復費用はないのであるから、その旨判示した原判決は正当である。

第4 求釈明
控訴人に対して、以下の事項を明らかにするよう求める。

1 控訴理由書4頁の「上記【1】(1)②参照」について、正しくは「上記【1】1②参照」と思われるため、控訴人に釈明を求める。

2 控訴理由書7頁の「イ)⑨リビング 網戸張替」について、「退去時の住宅補修査定基準「襖・障子」「引出その他金物」に該当」との記載があるが、網戸は「襖・障子」ではなく、「銅製・アルミ建具及び金物」に該当ではないか。

3 控訴理由書8頁の「エ)⑭玄関 靴箱ダイノック張替」について、「退去時の住宅補修査定基準「壁・天井」「板張り(化粧ベニア、ボード類等)」に該当」との記載があるが、玄関靴箱は「壁・天井」ではなく、「備品その他」に該当ではないか。

4 控訴理由書9頁の「オ)⑮洋室8.1帖 入口枠 ダイノック張替 材工共」について、「退去時の住宅補修査定基準「壁・天井」「塗装」に該当」との記載があるが、居室の入口枠は「壁・天井」ではなく、「木製建具・金物」に該当ではないか。

5 控訴理由書12頁の「本件特約③」との記載については、正しくは「本件特約ウ」と思われるため、控訴人に釈明を求める。

6 控訴理由書19頁の「また上記第3・1記載のとおり」との記載については、正しくは「また上記第2・1記載のとおり」と思われるため、控訴人に釈明を求める。

以上