【第104回】控訴審判決2

はじめに

敷金返還請求事件の控訴審において、先日、裁判所から判決文が送付されてきました。

今回はその内容について記載しようと思います。控訴人が賃貸人で、被控訴人が賃借人です。

裁判所の判決文(2)

(1)からの続き)

 

1 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)被控訴人は、本件敷金契約に係る敷金の返還請求権を有するか。
(被控訴人の主張)
 敷金を出捐したのは被控訴人である。よって、被控訴人は、控訴人に対し、本件敷金契約に係る敷金の返還請求権を有する。
(控訴人の主張)
 本件敷金契約における敷金の返還先となるのは●●である。このことは、本件契約の契約形態は法人契約であること、本件敷金契約に基づく敷金は、●●に対して請求がされ、支払われていることからも明らかである。

(2)本件特約の有効性
(控訴人の主張)
 本件特約の内容は、被控訴人らが原状回復義務を負担する通常損耗の範囲について、①自然損耗を含めたハウスクリーニングの費用を賃借人の負担とすること、②生活の中で発生した汚損の復旧費用は、控訴人と被控訴人らで2分の1ずつ負担することである。
 本件契約書と一体をなす本件説明書において本件特約が明記されており、退去に当たって被控訴人らが負担しうる工事の内容については、本件査定基準に定められている。また、被控訴人らは、本件契約に際し、控訴人側から依頼を受けた▲▲株式会社の▲▲(以下「▲▲」という。)から、本件契約書のほか、本件説明書及び本件査定基準の内容について説明を受け、本件特約の内容を明確に認識した上で、本件特約に合意した。
 なお、本件契約は、法人である●●が賃借人として本件居室を社宅として使用する法人契約であり、消費者保護の要請はない。
 よって、本件特約は、控訴人と被控訴人らとの間において有効である。
(被控訴人の主張)
 通常損耗の補修費用を賃借人に負担させる特約の有効性は厳格に判断されるべきであり、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲及び補修費用の額について、賃借人が認識できる状態でなければ、特約の合意が成立したとはいえない。
 本件契約書において、原状回復義務から通常損耗を除く旨が定められている(11条)ほか、本件契約書の特約条項(15条)に通常損耗の補修に関する記載はなく、通常損耗の補修費用について被控訴人らが負担しない旨の規定振りとなっており、本件説明書及び本件査定基準の記載をみても、被控訴人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲及び金額が一義的に明らかでない。
 また、本件契約は書面の郵送によって締結されたものであり、被控訴人が本件説明書及び本件査定基準の内容について、▲▲から直接説明を受けた事実はない。
 さらに、本件契約は、個人である被控訴人が居住する目的の契約であり、本件居室が通常より損耗するという事態は想定できないし、本件特約の内容は、原状回復の名目でハウスクリーニング等の費用を被控訴人に負担させるものであって、控訴人の暴利となるものである。
 よって、控訴人と被控訴人らとの間で本件特約の合意は成立していないか、成立していたとしても無効である。

(3)被控訴人が負担すべき原状回復費用の額
(控訴人の主張)
 ア 本件において、控訴人は、被控訴人との契約期間が長期に及んだこと等の事情を考慮し、被控訴人に対し、通常損耗にとどまる損傷の原状回復費用の負担は求めず、特別損耗に該当する損傷についてのみ負担を求める。また、特別損耗に該当する損傷について、状態が極めて悪い部分は原状回復費用の全額の負担を求めるが、その余については、原状回復費用の半額の限度でのみ負担を求める。
 イ 本件居室には、被控訴人が退去した当時、被控訴人の居室期間中に生じた、通常損耗を超える損傷があった。その内容は、別紙「控訴人負担内容一覧表」(以下「本件一覧表」という。)の「工事部位」欄記載(ただし、ルームクリーニング代を除く。)であり、これらについての原状回復費用は本件特約の有効性如何に関わらず、被控訴人が負担するものである。
 また、本件見積書は、分譲マンション管理業務等を業とする専門家である管理会社が作成したものであり、本件見積書に記載された損害額は相当であるから、上記特別損耗についての原状回復費用は、本件見積書と同額である、本件一覧表の「原状回復費用」欄記載のとおりである。
 そして、敷金から控除される被控訴人の負担である原状回復費用の額は、上記原状回復費用に「負担割合」欄の割合を乗じた、「被控訴人負担額」欄記載の額である。
 よって、被控訴人が負担する原状回復費用の額は、本件特約によって被控訴人が負担するルームクリーニング代■■円を含め、■■円(消費税込み)である。

(被控訴人の主張)
 ア 被控訴人が退去した当時、本件居室には多少の汚れや傷があったが、被控訴人の入居当時から一定の損傷があったこと、被控訴人は、常識的な範囲内で本件居室を利用していたこと、控訴人の居住期間は13年間にもわたり、多少の汚れや傷は当然生じるものであることからすれば、本件一覧表記載の損傷は全て通常損耗の範囲にとどまるものであり、特別損耗に該当するものはない。
 イ ルームクリーニング代を除いた、控訴人が主張する原状回復費用の額は、控訴人の関連会社である管理会社が算定しており、信用性が乏しいことのほか、耐用年数に応じた残存価値の程度を考慮していない(本件一覧表の番号1ないし8)、控訴人が次の入居者を確保するための工事費用である(本件一覧表の番号10ないし15)、必要かつ相当な工事の費用ではない(本件一覧表の番号14、15)などの点から、全体として相当でない。

(3)に続く)